海外の電磁界ばく露規制:超低周波電磁界ガイドラインと諸国の規制

 電磁界ばく露による有害な健康影響を防止するため、さまざまな国で独自の国内基準を定めています。法的強制力のある「規制」の場合もあれば、自発的な基準や指針である「ガイドライン」の場合もあります。

 独自の国内基準といっても、ほとんどの国は国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が定めたガイドラインをもとに定めています。ICNIRP は非電離放射線の専門家からなり、世界保健機関(WHO)が公式に承認した非政府組織です。世界中で実施され、公表された科学論文の綿密な評価結果を基盤に、ばく露制限値を勧告しています。

 身体が電磁界にばく露されると体内に電流が発生し、その影響により神経が刺激されることがあり、これを刺激作用といいます。

 人の体内には、もともと脳の神経活動や心筋活動による電流が自然に流れています(内因性電流といい、脳電図や心電図として観測することができます)が、これと同程度あるいはそれ以上の大きな電流が電磁界により体内に発生すると、神経や筋肉等の活動に影響を与える刺激作用により健康に悪影響をおよぼす恐れがあると考えられています。

 この内因性電流と同じ程度の電流を体内に発生させるのは、およそ500~5,000 マイクロテスラ(居住環境での最大レベルの数十~数百倍)の外部磁界です。

 人体の中で最も敏感なところは目の網膜といわれており、一般の方々が日々の生活のなかで遭遇するレベルを遥かに超えるような非常に強い磁界に頭部がさらされると、目を閉じていても何か光がみえるような現象(磁気閃光)を感じることがわかっています。

 超低周波電磁界については、周波数300 ギガヘルツまでを対象とした1998 年のガイドラインが刊行されていましたが、2010 年に周波数1 ヘルツ~100 キロヘルツ範囲のガイドラインが更新されました。ただし、ばく露限度値の基礎的根拠には両者に違いはありません。各国の超低周波電磁界の規制は、1990 年代後半から2000 年代に定められたものが多く、したがって多くの国は1998年に刊行された旧ガイドラインにもとづく数値を採用しています。

 下表に、超低周波の電界および磁界に関するICNIRP ガイドラインおよび主要各国の規制・ガイドラインの一覧を示します。なお、超低周波の場合、電界と磁界は別々に考えるのが現実的でありますので、規制も別々に規制されています。

 次に、その表中の国のうち欧州6 カ国の規制については、やや詳細な説明を付け加えます。なお、スイス、イタリアなどでは、ICNIRP ガイドラインにもとづく規制の他、追加的に念のための政策にもとづく規制も設定しています。詳しくは下表欄外および「プレコーショナリ・アプローチ事例[▶Ⅳ(参考 3)]」を参照してください。

[参考資料]

1)
「 ICNIRPガイドライン 時間変化する電界および磁界へのばく露制限に関するガイドライン(1Hzから100kHzまで)」 “ICNIRP Guidelines for limiting exposure to time-varying electric and magnetic fields(1 Hz to 100 kHz)” Health Physics 99(6), pp.818-836, ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)(2010)
http://www.icnirp.de/documents/LFgdl.pdf
http://www.icnirp.de/documents/LFgdljap.pdf(和文)


ICNIRP および諸国の超低周波の電界および磁界に関する規制・ガイドライン

制定年電界磁界
KV/m区分μT区分





ICNIRP1) 2010年

5.0(50Hz)
4.2(60Hz)

ガイドライン

200(50Hz)
200(60Hz)

ガイドライン




日本

1976年
(電界)
2011年
(磁界)

3 規制

200
(50/60Hz)

規制
韓国 1989年 3.5 告示 83.3(60Hz) 告示(2004年)
米国
ドイツ 2013年 5 規制 100(50Hz) 規制
スイス 2000年 5 規制 100(50Hz)3) 規制
フランス 2001年 5 規制 100(50Hz) 規制
スウェーデン 2002年 5 規制 100(50Hz) 規制
イタリア 2003年 5 規制 100(50Hz)3) 規制
英国 2011年 9 基準 360(50Hz) 基準

規制:法規にもとづいた義務的な基準 

ガイドライン・勧告・基準:法的な拘束力を持たない自発的な基準・方針

告示:法的拘束力あり

1)
ICNIRP はWHO の環境保健クライテリアNo.238 の発刊を受けて、新しいガイドラインが2010 年末に発行されました。それまでの磁界のガイドライン値(1998年)は100μT(50Hz)、83μT(60Hz)でした。
2)
米国には国レベルの規制はありませんが州レベルでは規制を設けているところもあります。
3)
スイス、イタリアでは本規制値(ばく露制限値)以外に住宅、病院、学校等の特に防護が必要な場所において、設備に対して念のための政策に基づいた磁界の放出制限値(スイス:13)、イタリア:3)を設定しています。念のための政策(Cautionary Policies)についてはWHO背景説明資料「電磁界と公衆衛生:コーショナリ政策」(2000年3 月)に解説があります。
4)
英国の基準は自主的実施基準であり、旧ICNIRPガイドラインから独自に換算した値にもとづいています。
【出典】
経済産業省原子力安全・保安院「送電線等の電力設備のまわりに発生する電磁界と健康」(改訂第9版)

(ドイツを除く)

【欧州諸国の規制の詳細】

ドイツドイツ国旗
法令 連邦排出規制法施行令第26 法令
所管官庁 連邦環境・自然保護・原子力安全省(BMU)
制限値
(50Hz)
電界5kV/m、
磁界100 μ T(2013 年改正以前に設置された施設は、1 日の5%以内であれば2 倍
まで許容。ただし、住宅、病院等の近くの場合を除く)
対象施設
(50Hz)
架空電力線・地下ケーブル・変電施設(1,000V以上)

スウェーデンスウェーデン
助言 電磁界への公衆ばく露の制限に関する助言(2002年)
[勧告/拘束力無し]
所管官庁 放射線防護庁(SSI)
制限値
(50Hz)
電界5kV/m、
磁界100μ T
スイススイス
法令 非電離放射線からの防護に関する法令
(1999 年公布、2000年施行)
所管官庁 連邦環境・森林・景観庁(BUWAL)
制限値
(50Hz)
ばく露制限値:電界5kV/m、磁界100μT
予防放出制限値:磁界1 μT(人が定常的にかなりの時間を過ごす場所)
対象施設
(50Hz)
架空・地中送電線(1,000V以上)、変電所、開閉所
予防的放出制限
の適用除外(送
電線の場合)
新設の場合は国の認可が必要
磁束密度が最小化されるように相配置を最適化する(新設・既設)
技術的、運転上も実行可能で経済的に受容できる対策を講じる(新設)
イタリアイタリア
法令 電界、磁界、電磁界へのばく露への防護に関する枠組み法(2001年)、
電力線による商用周波電磁界に対する公衆防護のためのばく露制限値、
注意値、安心目標を規定する政令(2003年)
所管官庁 環境・国土保全省
制限値
(50Hz)
ばく露制限値:電界5kv/m、磁界100μT
注意値:磁界10 μ T(公園・住居等人々が4 時間/ 日以上滞在する場所、新設・既
設)
安心目標:磁界3 μ T(公園・住居等人々が4 時間/ 日以上滞在する場所、新設の
み)
注意値・安全目標の規制の考え方:潜在的な慢性影響に対する念のための方策の適
用、実行可能な最良の技術の採用
対象施設
(50Hz)
電力線、変電所、変圧装置(これ以外の施設はEU 勧告に従う)
フランスフランス
法令 電力輸送が満たすべき技術基準的条件を定めた省令(2001年)
所管官庁 電力運輸省
制限値
(50Hz)
交流での電気供給網に対し、公衆が通常立ち入ることができる場所では、通常の操
業条件下において、電界5kV/m、磁界100 μT を超えないようにする
英国イギリス
勧告 旧ICNIRP ガイドラインの基本制限に独自に開発した人体モデルを用いた
情報シート(2004年公表)をもとに政府・送電事業者間の自主的実施基
準(2011年)
所管官庁 放射線防護局庁(HPA:現在はPublic Health England;PHE)
制限値
(50Hz)
電界9kV/m、
磁界360 μ T
予防措置として新設高圧送電線に対する相配置最適化の実施基準がある

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