電磁界ラピッド計画(EMF・RAPID Program)

    50/60ヘルツの超低周波電磁界の健康影響に対する世界保健機関(WHO)以外のリスク評価として最も注目されるのは、1992年より足掛け7年にわたる米国の電磁界ラピッド計画(EMFRAPIDProgram)です。
    EMF-RAPID計画は、1992年、エネルギー政策に関する法案第2118号にもとづき、米国議会が、米国環境健康科学研究所(NIEHS:National Institute of Environmental HealthSciences)、米国衛生研究所(NIH:National Institute of Health)、米国エネルギー省(DOE:Department of Energy)に対し、超低周波電磁界ばく露による健康リスクの科学的証拠を明確にするために、研究・分析プログラムを立案・管理するよう指示したことに始まります。EMFRAPID計画とは、電磁界の調査および情報公開普及計画という意味ですが、そのなかには、電磁界の健康リスク評価や管理、電磁界ばく露の低減に向けた技術的研究とその結果を国民に公開し普及する任務が含まれています。
    1998年にはEMF-RAPID計画の作業部会報告書(NIEHS Working Group Report)1)で「超低周波磁界には発がん性があるかもしれない(Group 2B:国際がん研究機関(IARC)の発がん性評価基準)」と判断されました。これは、居住環境の超低周波磁界ばく露と小児白血病、職業性超低周波磁界ばく露と慢性リンパ性白血病との間に関連性があるかもしれないという意味です。その後、翌年にその最終報告書2)がNIEHSから発表されました。
    作業部会報告書提出から最終報告書が出るまでの動きを紹介します。

    EMF-RAPID計画における健康影響の評価作業の一部として、30人の科学者で構成される作業部会(Working Group)による国際シンポジウムが1998年6月に開催され、超低周波電磁界の科学的証拠に関するレビューと評価を行っています。その時の評決では、国際がん研究機関(IARC)の分類を用い、超低周波磁界が「発がん性(known human carcinogen)がある」あるいは「おそらく発がん性(probable human carcinogen)がある」と分類した作業部会メンバーは一人もいなかったのですが、大多数のメンバー(投票者28名中19名)は、超低周波磁界が「発がん性があるかもしれない (possible human carcinogen)」と判断しました。
    この決定の大きな拠りどころは、「居住環境での磁界ばく露において小児白血病のリスク増加、および職業環境での磁界ばく露に関する慢性リンパ性白血病の発症率増加について限られた証拠がある」ということでした。なお、動物や細胞の生物学的研究では磁界ばく露と発がんとの関連性は見つけられませんでした。他のがんやがん以外の健康影響について、実験データからは証拠がほとんどなく、ばく露の影響はないとしました。
    作業部会の会議に続いて、NIEHSは、シンポジウムと作業部会報告書についての意見聴取期間に9月から10月にかけて4回の公聴会を開催し、各個人および団体から、それぞれの意見を聴取しました。これと並行して、この間に178の文書でのコメントを受理しており、最終報告書を作成時の参考にしています。

    最終報告書でNIEHSが同意したのは、超低周波磁界ばく露と小児白血病および成人慢性リンパ性白血病との関連性が偶然に示されたとして、簡単に棄却することができるものではないということでした。一方、動物研究や細胞研究ではその関連性を支持する結果がえられなかったことは、その関連が実質的に超低周波磁界によるものであるという信頼を弱めています。以上のことから、超低周波磁界ばく露が安全であるとしないが、磁界に対する積極的な規制を実施するには不十分であるとも結論づけていています。しかし、実質的には米国の全ての人は電気を使っており、磁界へ日常的にばく露されているので、ばく露低減に向けた方法を継続するような受動的規制を求めています。一方、超低周波磁界による他のがんやがん以外の健康リスクに関しては十分な証拠はないが、今後とも白血病、神経後退性疾患、心臓疾患に関する研究は継続すべきであると指摘しています。

    なお、この最終報告書に対して米国科学アカデミー(NAS)は、生物学的研究では磁界ばく露と発がんとの関連性を招く証拠はなく、電気の使用が公衆への健康障害を有することはないとコメントして、今後は特別な研究プログラムへの資金提供を否定し、健康影響に関する情報提供を継続すべきと勧告しています3)。これを契機に、米国での超低周波磁界と健康問題に関する国民の関心は急速に減少しました。NIEHSは、現在も継続してホームページ4)で、電磁界のQ&A を設けています。

    なお、1999年にNIEHSのOlden所長による米国議会への報告をもってEMF-RAPID計画は終了しましたが、その後米国議会からこれに対する何の反応もないまま今日に至っています。

[参考資料]

1)
“Assessment of health effects from exposure to power-line frequency electric and magnetic fields”, NIH Publication No 98-3981, NIEHS(1998)
2)
“Report on health effects from exposure to power-line frequency electric and magnetic fields”, NIH Publication No99-4493, NIEHS(1999)
3)
“Research on power-frequency fields completed under the Energy Policy ACT of 1992”, National Academy Press(1999)
4)
http://www.niehs.nih.gov/health/topics/agents/emf/

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