疫学研究とは、基本的には人口集団における病気の発生数を調べる一方、その病気の原因である可能性を持つ要因へのばく露の有無、またはばく露レベル別で病気の発生頻度に違いがあるか、またはどの程度違っているかを観察する研究です。病気の原因は単一ではありません。その人を取り巻く環境や本人の栄養状態、遺伝的背景などが強く病気の発生にかかわっています。疫学的な調査・観察により、これらの要因がどのように病気の発生に関係するのか、それぞれの要因の意義をできるだけ定量的に示すことが、疫学の第一段階の目的です。次に、その結果や後述する総合的評価にもとづいて病気の予防対策を計画・実行・検証し、より効果的な病気の予防法を明らかにすることが疫学の最終的な目標です。

疫学研究の理解で重要なことは、原因の探求といっても、ある特定の要因のばく露を受けた人は100%その病気に罹り、ばく露を受けなかった人は100%その病気に罹らないというような関係を明らかにするのではないということです。とくにがんや生活習慣病などでは、現実にそのような状況はほとんどありえません。電磁界の健康影響に関する疫学研究もこのような観点から実施されています。

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疫学研究では、調査に先立って、「実際に発生した病気」と「その病気の原因である可能性を持つある要因」に関するデータをどのように収集し、両者の関係をどのように調べるかという研究方法を決定します。研究方法は大きく分けて2つあります。すなわち、病気を発症した人と発症しない人を調査して、過去における要因へのばく露体験に違いがあったか否かを調べる「症例対照研究」、ばく露を受けている集団と受けていない集団で病気の発生頻度に違いがあるか否かを調べる「コホート研究」です。電磁界の健康影響に関する疫学研究では「症例対照研究」が最も多く用いられていますが、「コホート研究」も多少行われています。

症例対照研究

ある病気を発症した人(症例群)と発症していない人(対照群)の両群を対象にして、関連すると思われる因子へのばく露状況を比較する研究です。

長所 ・調査対象が小さくてもよい(希な病気の場合に適する)。
・費用、労力が比較的小さい。
短所 ・対照の選定に偏りが生じやすい。
・発病率の計算は不可能である。

コホート研究

コホートとは、古代ローマの歩兵隊の一単位で300~600の集団を表す言葉ですが、疫学では共通の因子を持った集団の意味で用います。設定したコホートのなかで、ばく露群と非ばく露群から発生する疾病の状況を比較する研究をコホート研究といいます。

長所 ・発病率が計算できる。
・複数の病気に対する危険性が評価できる。
短所 ・大規模集団の長期的観察が必要である(とくに希な病気の場合)。
・多くの要因を検討する必要がある。

症例対照研究とコホート研究の調査の流れ

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統計学的関連性と因果関係の違い

疫学研究の結果から、ある要因とある病気の発症との間に統計学的に有意な関連性が確認されても、直ちにその要因が原因で病気が発症する(因果関係がある)と結論づけることはできません。その理由を次の例で説明します。
例:「オンドリ」と「気温の上昇」

調査を行うと、オンドリが鳴くことと気温の上昇との間に統計学的に有意な関連性が見られます。

しかし、統計学的な関連性はあるものの、オンドリの鳴き声が気温を上昇させる原因ではなく、日の出によって温度が上昇するのです。

したがって、疫学研究の結果だけから真の因果関係の有無を判断すると、誤った結論を導いてしまう可能性があります。そのため、一般的には疫学研究で関連性が示唆された場合、生物学的研究などを含めた総合的な見地から判断する必要があります。

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