環境保健クライテリア(EHC:Environmental Health Criteria)No.2321)は、「静電磁界の自然発生源と人為的発生源」、「人との相互作用とそのメカニズム」、「ばく露量測定(ドシメトリ)」、「細胞研究」、「動物研究」、「人に対する実験的研究」、「疫学研究」、「健康リスク評価」、「各国政府への勧告」、「今後の研究に関する勧告」など15章で構成されています。原文は英語ですが、「序文」2)、第1章「要約と今後の研究に関する勧告」3)、第9章「健康リスク評価」4)、第10章「各国の管轄当局に対する勧告」5)については、和訳しましたので、参考資料をご参照ください。

環境リスク評価

このなかでは、第9章の「健康リスク評価」が最も関心があると思いますので、その概要を紹介します。

【静電界】

静電界のばく露影響については、慢性的影響について何らかの結論出せるほどの研究はありません。発がん性についても、国際がん研究機関(IARC)は、静電界の発がん性を判断するのに充分な証拠はないと指摘しています6)
静電界の急性影響についてもほんのわずかな研究しか行われていません。その研究結果は、電界の直接知覚と静電気放電による不快だけであるといえます。

【静磁界】

疫学研究および実験研究から入手可能な証拠は、慢性的影響について何らかの結論を導くには不充分です。発がん性についても、IARCは人に対する静磁界の発がん性については充分な証拠がなく、また動物実験からも関連性のあるデータは入手できないと結論しています。したがって現在のところ、人に対する発がん性については分類できないという判断です6)
短期的影響については、日常生活では遭遇することのない、8テスラ以上で、人のボランティアや動物に関する研究結果から、血圧や心拍数などの心臓血管系への影響が起こる可能性はあるとされています。さらに不整脈が起こる可能性も否定できませんが、その様な可能性を持つ人は1万人当たりおよそ5~10人と考えられますが、その論拠は不確実です。
約2~4テスラを超える強い磁界勾配で身体を動かすとめまいや吐き気といった感覚が発生し、眼の閃光や口内の金属質の味覚が一過性に現れると報告されています。したがって、MRI装置内の強磁界下で繊細な手術を行う外科医に影響を与えたり、医療スタッフの安全に影響が生じる可能性があります。その他の生理学的反応に対する作用も報告されていますが、確固たる結論を出せる状況ではありません。

各国の管轄当局に対する勧告

次に、第10章「各国の管轄当局に対する勧告」5)の概要を紹介します。

【静電界】

「静電界による主な影響は身体組織への放電による不快感なので、防護プログラムは強い電界へのばく露が生じる状況とそうした状況の回避法について情報を提供するだけとなるであろう」と述べています。

【静磁界】

「静磁界について確認されている急性影響に対しては、それを防ぐためのプログラムが必要である。ばく露による長期的影響については現在のところ充分な情報がないため、費用対効果に優れたプレコーション的措置を講じて、労働者および一般の人のばく露を制限することが必要かもしれない」と述べています。
具体的には、「各国政府は、人々の静磁界へのばく露を制限する、合理的な科学に基づいた基準を採用すべきであり、静磁界については国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)による国際的なばく露ガイドライン7)があるが、科学文献に記載された最新の証拠に照らしてこれを見直すべき」と勧告しています。この勧告を受けて、ICNIRP は2009年に静電磁界に関する国際的なばく露ガイドラインを見直しました8)

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