ヒトは昼間には目覚め、夜になると眠くなります。

しかし、ジェット機でアメリカやヨーロッパに旅行して、昼夜の時間がずれると昼間は無性に眠くなり、夜は眠ろうとしても眠れなくなることを経験し、ヒトによっては、これが2~3日続き、現地の昼夜になれたと思ったら、帰国という方が多いのではないでしょうか。これは、体内時計が、時差と無関係に元のリズムを維持し続けることによっています。ヒトの睡眠、体温、脈拍、酸素消費量などの生理機能の日周変化は昼夜の明暗周期と関係があると考えられています。言うまでもなく、動物も全て1日のリズムを持っており、ラットの体温、呼吸、活動も周期性を示しています。このように、地球上の全ての生物はほぼ24時間を周期としたリズムを持っており、その周期を概日周期と言い、その形成は生命の誕生以来繰り返されてきた地球の自転に基づく昼夜の明暗変化に対応して生体内に擦り込まれた生物時計によるものと考えることができます。

ヒトのフリーランリズム周期

ドイツ、マックス・プランク研究所のアショッフ教授は、フリーラン(自由継続)リズム周期と照度の関係は、動物が夜行性であるか、昼行性であるかによって異なる「アショッフの法則」を見出しています。フリーランリズムは、外部の環境因子を取り除いた後もある周期で継続するリズムをあらわしますが、夜行性の動物では、フリーランリズム周期は照度が上がるにつれて、その周期は長くなり、恒常的な暗の場合には周期が最も短くなります。一方、昼行性の動物では、その周期は恒常暗で最も長くなり、照度が上がるにつれて周期が短くなります。この法則は、経験則として発表され、節足動物や昼行性哺乳類などに例外が見られます。

さて、ヒトで体温や毎日の寝起きのリズムを記録すると、24時間周期のリズムが明瞭にあらわれます。この24時間周期は、太陽などの外界の要因によって強制的に同期されたものであり、生物固有のものではありません。そのため、外界の情報をシャットアウトした状態での生物の持つ固有のリズムを明らかにする実験が進められました。深い地下室など、音や光、外部の刺激を隔離した状態で生活していくと、1~2日で24時間周期がなくなり、25.3時間の周期となっていき、これが持続していきます。これはヒトが持っている自由なフリーランリズム周期は25.3時間であることを示しています。1960年代以降、ドイツのウェーバ教授はヒトの持っているフリーランリズム周期を観察していきました。その結果、周期が突然、25.3時間と33.4時間の2つの周期に分離する「内部同期はずれ現象」が見られました。また、25.0時間の周期でリズムを刻んでいたのが、突然、50.0時間周期に変わり、しばらくして元の基本周期にもどり、その後、再度倍の周期になる「倍周期現象」が観察されました。

電界と「内部同期はずれ現象」

このような中で、ウェーバ教授は地球電界がヒトのフリーランリズム周期に与える影響を調べるために、外界の音や光を遮断した部屋を地下に2部屋作りました。1室は電界が遮蔽され、他室は遮蔽されていないが部屋の大きさ、内装、家具の配置などは全く同じです。この一見何の違いもない2つの部屋に延べ50人の被験者を数週間にわたって住まわせ、彼らの活動と体温、睡眠、尿排出のリズムを測定しました。そのような測定の結果から奇妙な現象が観察されました。それは、遮蔽された室の被験者のリズム周期には25.3時間と33.4時間の2つの周期に分枝する、いわゆる「内部同期はずれ現象」が観察されましたが、非遮蔽室ではそれが1件も観察されなかったことです。また非遮蔽室の被験者のリズム周期は、遮蔽室の被験者のリズム周期より統計的に有意に短かった結果も得られています。次いで、ウェーバ教授は遮蔽室に自然界とほぼ等しい強度の低周波電界としてシューマン波、10Hz方形波で強さが2.5V/mの電界を加えた状態で、リズム周期の観察を行っていきました。その結果、電界をかけると直ちにヒトのフリーランリズム周期は短くなり、電界を切るとまた元に戻った結果が得られました。また「内部同期はずれ現象」は電界をかけている間は観察されませんでした。このような実験が繰り返され、自然界の10ヘルツの交流電界は、生体リズムとして、その周期を1.27時間ほど短くし、個人差を小さくすること、「内部同期はずれ現象」を抑制する、などが結論とされました。

動物のフリーランリズム周期

ウェーバ教授が10Hzの電界がヒトのフリーランリズム周期に及ぼす可能性があることを観察しましたが、その後、実験動物のフリーランリズム周期に及ぼす直流電界および10Hzの方形波状電界の影響が調べられています。実験に用いた動物は、マウス、ショウジョウバエ、グリーンフィンチなどで、それらの運動活性リズム-Locomotor activity rhythm-が指標として取り上げられました。グリーンフィンチ(Cardeulis chloris)を用いた実験では、10Hz、方形波状で強度が2.5V/mの電界を繰り返し、入れたり切ったりしました。電界を入れるとフリーランリズム周期は短く、電界を切るとその周期が長くなり、ヒトで得られた結果と定性的に一致していることがウェーバ教授によって1973年に報告されました。一方、同じグリーンフィンチに同じ電界でフリーランリズム周期が調べられていますが、ウェーバ教授が報告した結果と異なり、10Hzの方形波状で同じ電界を加えても影響は観察されませんでした。実験は、8.7および65.2V/mの電界強度でも行っており、同様に、周期への影響は見られていませんでした。さらに、イエバエ(Musca domestica)の運動を10Hz、1kV/m、10kV/mの電界中で調べることで、電界がリズムの同調因子となるかどうかを確認することで、ウェーバ教授がヒトで行った観察結果の再現を試みた実験もあります。これらの実験は電界が生体のリズムに対する同調因子となる可能性を示唆していますが、実際の実験中での電界の測定がなされていない、それぞれの実験に用いた動物の個体の数が少ないなど種々問題点が指摘されます。

1970年代には、自然発生電界の影響として、10Hzの電界とファラデー遮蔽条件下でのマウスの代謝の違いが調べられ、外部の電界を遮蔽したファラデー遮蔽条件で見られる変化が、10Hz電界で改善されることなどが発表されました。10Hzで3.5kV/mの交流電界、3.5kV/mの直流電界ならびにファラデー遮蔽条件下でマウスの行動を調べると、10Hz電界中での活動が活発になること、マウスは電界の違いを認識していることなどが報告されています。ファラデー遮蔽条件下では、ほぼ自然界中の電界をゼロにすることができます。

測定方法の問題点

このようにシューマン共鳴による10Hz電界がヒトや動物の行動や概日リズムに対する影響を調べた報告を示しましたが、明確な結論は得られていません。その原因は、一定に制御された環境下で電界のみを実験の対象に与えることが困難な点です。 また、ばく露ケージの材質、ばく露方法を検討すると実験の環境条件のわずかな違いで、電界の大きさが変化し、一定に保たれないこと、報告には電界の実測方法や測定値も示されていないなどの問題点があり、電界を加える電源からの雑音やコロナ放電などの実験技術的な要因を考慮する必要が指摘されます。

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