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- 身のまわりの磁界の大きさ
電磁界情報センターでは、2013年に、電気自動車、ハイブリッド車、ガソリン車から発生する磁界について測定を行い報告しました(測定結果)。
その後、世界的に電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及が急速に進んでいること、自動車の磁界測定方法を規定した国際規格であるIEC62764-1が制定されたことから、今回、現行モデル車について改めて磁界の測定を実施しました。
測定車両として、日本で広く普及している現行の電気自動車、プラグインハイブリッド車、ガソリン車をそれぞれ1車種ずつ選定しました(図1)。
測定方法は、自動車の磁界測定の国際規格(IEC62764-1)に基づいた方法で実施しています。
測定器は、図2に示すJIS規格(日本産業規格JIS C 1910-1)に従い、定期的な校正により測定値が正しい値を示すことを確認している測定器(ELT-400、Narda S.T.S社製(ドイツ)測定可能周波数1 Hz~400 kHz)を使用しました。
また、自動車では、様々な機器から複数の周波数の磁界が発生しているため、図3に示す周波数アナライザー(磁界測定システム7904A-201、Eiden社製、日本))を用いて周波数分析を実施しました。
各車両において、図4に示す測定位置A~Iそれぞれで最大値を示す点の磁界を測定するとともに、停止時の車両の外部および充電時の充電ケーブルとソケットについても測定しました。
身体が直接触れる座席表面の測定位置(B、C、E、F)では、測定点からプローブ中心までの測定距離を6.5cmとして測定しました。その他の測定位置では、測定距離を20cmとして測定しました。また、測定場所の周囲の磁界(バックグラウンド磁界)を、車両が無い状況で測定しました。
表1に測定場所とスマートメーターの設置状況を示します。
様々な状況で磁界の測定を行うため、車種ごとに表1に示す4つの測定条件で磁界を測定しました。
走行中の測定は、テストコースの周回路を使用して実施しました。
また、その際、電気機器(エアコン、音響機器、ワイパー、ライト等)は、全て最大出力で稼働させた状態で測定しています。
各測定条件において、3回以上測定を行い、その最大値を採用しました。
(1) 磁界測定値
各車種における、全ての測定条件の中で測定された磁界の最大値を表2に示します。
最大値が測定された位置は、電気自動車、プラグインハイブリッド車では、後部座席シート上(E、測定距離6.5cm)、ガソリン車においては、運転席側ダッシュボード上(G、測定距離20cm)でした。
最大値を示した測定条件は電気自動車、プラグインハイブリッド車では、③ダイナミックモードでの加速・減速時、ガソリン車では①停止時でした。
最大磁界レベルでは、プラグインハイブリッド車が一番高い値となり、ガソリン車の方が電気自動車より高い結果となりました。
(2) 周波数分析
プラグインハイブリッド車の測定位置Aの周波数分析の結果を図7に示します。
測定条件毎に異なる周波数成分の最大値(周波数ピーク)が測定されましたが、車両の速度によって変化する周波数成分と車両の速度に関わらず一定の周波数成分がそれぞれ確認されました。前者はタイヤやモーター等から発生する回転磁界、後者は空調機器や冷却ファン等の機器から発生する磁界と推定しました。
電気自動車の充電ソケットでは、急速充電時は車両への入力が直流電流のため、バックグラウンド磁界と同等の周波数特性となり、普通充電時は入力が交流電流のため、商用周波数50Hzの成分が測定されました(図8)。
ガソリン車の測定位置Gでは、1~5 Hzまでの周波数成分が主に確認されました。これはワイパーの動作時顕著に値が大きくなったため、ワイパー動作による回転磁界と推定しました(図9)。
(3) 磁界レベルの評価
各車種における、磁界の最大値が測定された時の周波数ピークに対する磁界レベルの評価結果を表3に示します。すべての車種でICNIRPガイドラインよりも低いことがわかりました。
また、自動車の測定では、複数の周波数成分が測定されているため、これらの値に対するICNIRPガイドラインの参考レベルに対する割合を加算した値における評価式(1)による評価を実施しました。評価式の値が1以下であればガイドラインを満足します。表4に示す通り加算値が1より低くなり、ガイドラインより低い値となることがわかりました。
自動車からの磁界を測定した結果、最大値はプラグインハイブリッド車で最も高く、次いでガソリン車、電気自動車の順でした。周波数特性では速度依存成分と一定成分が確認され、それぞれモーターや補機類から発生すると思われました。充電時には交流入力で50Hz成分、ワイパー動作時には1~5Hz成分が観測されました。また、いずれの場合もその磁界レベルはICNIRPガイドラインよりも低くなることがわかりました。
なお、本内容は、2025年3月に開催された電気学会全国大会および2025年6月に開催されたBioEM2025(フランス、レンヌ)で発表するとともに、査読付き論文誌であるElectronics誌に論文が掲載されました(Electronics 2025, 14(15), 2936; https://doi.org/10.3390/electronics14152936)。