現行の基準

基準は私たちの健康を保護するために定めるものであり、 多くの食品添加物、水中の化学物質や大気汚染物質の濃度などに関する基準はよく知られています。 同様に電磁界に関する基準もあり、環境中の電磁界への過度のばく露を制限しています。

ガイドラインは誰が決めるのか?

各国は電磁界ばく露に関する独自の国内基準を定めています。ただし、そのような国内基準のほとんどは、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が定めたガイドラインに基づいています。 ICNIRPはWHOが公式に承認した非政府組織であり、全世界の科学研究の結果を評価しています。 さらにICNIRPは科学論文の綿密なレビューに基づき、ばく露の限度値を勧告するガイドラインを作成します。これらのガイドラインは定期的に見直しされ、必要があれば更新されます。

電磁界レベルは周波数に応じて複雑に変化します。すべての基準及びすべての周波数について数値を一覧表に示しても分かりにくいと思います。下表は、一般市民の懸念の対象となっている3つの領域、 すなわち家庭内の電気、携帯電話基地局、電子レンジに関するばく露ガイドラインの要約です。 このガイドラインは1998年4月に最後の更新が行われています。

  • 静電磁界のガイドラインは2009年に、100kHzまでの低周波電磁界のガイドラインは2010年にそれぞれ更新されました。

ICNIRPばく露ガイドラインの要約

ヨーロッパの電力周波数 携帯電話基地局の周波数 電子レンジの周波数
周波数 50Hz 50Hz 900MHz 1.8GHz 2.45GHz
電界(V/ m) 磁界(µT) 電力密度
(W/ m2)
電力密度
(W/ m2)
電力密度
(W/ m2)
一般市民のば
く露限度値
5000 100 4.5 9 10
職業ばく露
限度値
10000 500 22.5 45

ICNIRP、電磁界ガイドライン、Health Physics 74、494-522(1998年)

ばく露ガイドラインは、旧ソビエト諸国の一部と西側諸国とで100倍以上異なる場合があります。 貿易のグローバル化と無線通信の急速な世界的普及を考えれば、万国共通の基準が必要です。 旧ソビエト連邦の多くの国は現在、新しい基準を検討中であるため、 WHOは先般、ばく露ガイドラインを全世界で調和させるためにイニシャティブをとり始めました。今後の基準はWHOの国際電磁界プロジェクトの結果に基づいたものになるはずです。

ガイドラインは何を根拠としているのか?

強調すべき重要な点は、ガイドラインの限度値は安全と有害との正確な境界を明示するものではないことです。 ばく露がそれを超えれば健康に有害だというあるレベルがあるのではなく、 人の健康にとっての潜在的リスクはばく露レベルの上昇とともに次第に大きくなっていきます。 ガイドラインが示しているのは、科学的知識にしたがって、ある一定の閾値を下回る電磁界ばく露は安全であるということです。 ただし、それを受けて自動的に、与えられた限度値を超えたばく露は有害であるということになるわけではありません。

とはいえ、ばく露限度値を設定するためには、科学的研究により健康への影響が初めて出現する閾値レベルを確認しなければなりません。 人を実験に使うことはできないため、ガイドラインは決め手を動物研究に依存しています。 低レベルのばく露における動物の微妙な行動変化は、それより高いレベルにおける健康状態の重大な変化に先行して生じることがしばしばあります。 異常行動は生物学的反応の非常に敏感な指標であり、そのような異常行動が最も低いばく露レベルで観察できる健康への悪影響として選ばれました。 ガイドラインは、行動変化が認められる電磁界レベルへのばく露を防止するよう勧告しています。

この行動に関する閾値レベルはガイドラインの限度値と同じではありません。 ICNIRPは10倍の安全係数を適用して職業ばく露の限度値を導き出し、一般市民に対しては50倍の安全係数を適用してガイドライン限度値としています。 したがって、たとえば無線周波やマイクロ波の周波数範囲では、環境中や家庭で経験する可能性がある最大レベルは、 動物に行動変化が初めて現れる閾値レベルの少なくとも50分の1のレベルです。

どうして職業ばく露ガイドラインの安全係数は一般市民のガイドラインより低いのか?

職業的にばく露する人々は成人で、通常、電磁界条件を分かっていて経験します。 このような労働者は潜在的なリスクを承知し、適切なプレコーションをとるように訓練を受けています。 それに対し一般市民にはあらゆる年代、さまざまな健康状態の人々がいます。 多くの場合、一般市民は自分がEMFにばく露されていることに気づいていません。 しかも一般市民のひとりひとりが、ばく露を最小に抑えたり回避したりするためにプレコーションをとることは期待できません。 こうした配慮に基づき、職業ばく露される労働者よりも一般市民に対してばく露制限が厳しくなっているのです。

これまで見てきたように、低周波の電磁界は人体に電流を誘導します(「電磁界にばく露されるとどうなるの?」参照)。 しかし人体のさまざまな生化学反応もまた電流を発生させます。 細胞や組織は、そうしたバックグラウンドレベルを下回る誘導電流は検知できないと考えられます。 したがって低周波のばく露ガイドラインは、電磁界が誘導する電流のレベルが人体の自然な電流レベルを下回ることを保証します。

無線周波エネルギーの主な作用は生体組織の加熱です。 したがって無線周波電磁界やマイクロ波のばく露ガイドラインは、 局所または全身の加熱による健康への影響を防止するように定められています(「電磁界にばく露されるとどうなるの?」参照)。 ガイドラインを遵守することで、加熱作用は有害でない程度まで十分に小さいことが保証されます。

ガイドラインが責任を持てないものは…

現在のところ、長期的な健康への影響の可能性に関する推測はガイドラインや基準を発行するための根拠と成り得るものではありません。 すべての科学的研究の結果を積み上げた証拠の全体的重みは電磁界ががんなど長期的な健康への影響を引き起こすことを示していません。 各国政府機関および国際機関は、健康への既知の影響を防止するため、最新の科学的知識に基づいて基準の策定と更新を行っています。

ガイドラインは平均的な人口集団について策定されており、より高い感受性を持つ可能性がある少数の人々の要求に直接対処することはできません。 たとえば大気汚染に関するガイドラインは、喘息患者の特殊なニーズに基づいていません。 同様に電磁界のガイドラインも、心臓ペースメーカなど植え込み型医用電子装置との干渉から人々を防護することは意図されていません。 その代わりに、避けるべきばく露状況についての助言を製造者または装置の植え込み手術をした臨床医に問い合わせるのがよいでしょう。

何をもって家庭や環境における典型的な最大ばく露レベルとするか?

いくらか実際的な情報があった方が、上述した国際ガイドラインの値が理解しやすくなると思います。 そこで下表に最も一般的な電磁界発生源を示しました。値はいずれも一般市民の最大ばく露レベルです。 したがってあなたご自身のばく露はこれよりはるかに低いだろうと思います。 個別の電気機器の周りの電磁界レベルを詳しく知るには、家庭と環境における典型的なばく露レベルの節を参照してください。

出典:WHOヨーロッパ地域局
発生源 一般市民にとって典型的な最大ばく露レベル
電界(V/ m) 磁束密度(µT)
自然の電磁界 200 70(地磁気)
電力供給線
(電力線付近ではない家屋内)
100 0.2
電力供給線
(大きな電力線の直下)
10000 20
電車と路面電車 300 50
テレビとコンピュータの画面
(操作者の位置で)
10 0.7
一般市民にとって典型的な最大ばく露レベル(W/ m2)
テレビとラジオの送信機 0.1
携帯電話基地局 0.1
レーダ 0.2
電子レンジ 0.5

ガイドラインはどのように実行され、誰がそれをチェックするのか?

電力線、携帯電話基地局、あるいは一般市民が近づく可能性があるその他の発生源の周囲の電磁界を調査する責任を負うのは政府機関や地域の管轄当局です。 そうした機関はガイドライン遵守の維持を確保しなければ成りません。

電子機器に関しては、製造者が基準限度値を遵守する責任を負います。ただしこれまで見てきたように、ほとんどの機器の性質上、放射する電磁界が閾値を十分に下回るレベルであることは確実です。 その上、多くの消費者団体は規則的にテストを実施しています。特に何か懸念や心配がある場合は、製造者に直接問い合わせるか、 地元の公衆衛生管轄当局に照会してください。

ガイドラインを超えたばく露は有害か?

賞味期日内にイチゴジャム一瓶を食べ切るのはまったく安全なことですが、 その期日をいくらかでも過ぎてそのジャムを食べるのであれば、製造者は食品の品質を保証できません。 とはいえその期日を数週間ないし数カ月過ぎていたとしても、普通はジャムを食べても安全です。 同様に電磁界ガイドラインは、所定のばく露限度値以内であれば健康に対する既知の悪影響は生じないことを保証しています。 健康影響を引き起こすことが分かっているレベルにさらに大きな安全係数を適用しています。 したがってたとえ所定の限度値の何倍かの強度の電磁界にばく露されたとしても、そのばく露はまだ安全マージン内にあることになります。

日常生活の中では、ほとんどの人はガイドライン限度値を超える電磁界を経験することはありません。 典型的なばく露は限度値をはるかに下回ります。ただし時には、個人のばく露が短時間だけガイドラインに近づく、 あるいはそれを超えるという事態が起こります。ICNIRPによれば、累積的作用に対処するため、 無線周波とマイクロ波のばく露は時間で平均することになっています。ICNIRPガイドラインは時間平均する時間を6分間と規定し、限度値を上回る短期ばく露は許容されています。

それとは対照的に、このガイドラインで低周波の電界及び磁界へのばく露は時間平均しません。 話がやや複雑になりますが、カップリングというもう1つの要因が説明に加わります。 カップリングとは、電界及び磁界とばく露を受ける身体との相互作用を意味しています。 カップリングは身体の大きさと形状、生体組織の種類、電磁界に対する身体の向きによって変化します。 ガイドラインは安全側に立たなければなりません。そのためICNIRPはばく露される人と電磁界のカップリングをつねに最大限と仮定しています。 つまりガイドラインの限度値は最大限の保護を提供しています。 たとえばヘアドライヤーや電気シェーバーの磁界の値が勧告値を上回っているように見えても、 磁界と頭部の間のカップリングは非常に弱いため、ガイドラインの限度値を超える電流を誘導することはできません。

キーポイント

  • ICNIRPは最新の科学知識に基づくガイドラインを発行しています。ほとんどの国はこの国際ガイドラインに基づいて自国の国内基準を策定しています。
  • 低周波電磁界の基準は、誘導電流が身体内における通常のバックグラウンド電流レベルを下回ることを保証しています。無線周波とマイクロ波の基準は、全身または身体の一部の加熱による健康への影響を防止しています。
  • ガイドラインは医用電子装置との干渉可能性を防護するものではありません。
  • 日常生活における最大ばく露レベルはガイドライン限度値よりはるかに低いのが普通です。
  • 安全係数を大きくとっているため、ばく露がガイドラインの限度値を超えても必ずしも健康にとって有害なわけではありません。その上、高周波電磁界では時間で平均をとること、低周波電磁界では最大カップリングを仮定することにより、さらに追加的な安全マージンが導入されます。

参考:WHO 国際電磁界プロジェクトHP

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