国際EMFプロジェクト
国際EMFプロジェクトとは何か?
背景
静的または時間変化する電界及び磁界へのばく露による健康影響の可能性については科学的に解明する必要があります。あらゆる周波数の電磁界は、環境影響因子のうちで最も一般的であると同時に最も急速に拡大しているものの1つであり、電磁界に対する心配と推測が広まりつつあります。今や世界中のすべての人が程度の差こそあれEMFにばく露されており、ばく露レベルは技術進歩にともなって今後も上昇し続けるでしょう。したがってたとえ小さくともEMFばく露による健康影響が仮にあるとしたら、大きな公衆衛生上の影響をもつかも知れません。
電力周波数(50/60Hz)の超低周波(ELF)磁界へのばく露が小児がんの発症率上昇やその他の健康への悪影響をもたらすのではないかという懸念があります。その証拠は主に住宅での疫学研究によるものです。このような疫学研究は、ELF磁界ばく露した小児にそれに関連した白血病のリスク上昇があることを示しています。
無線周波(RF) の電磁界は、日常生活の多くの場面で大きな便益をもたらしています。たとえばテレビやラジオの送信、無線通信(携帯電話など)、病気の診断や治療、産業分野での物質の加熱やシーリングなどです。携帯通信装置が特に一般市民の間に急速に普及したことで、携帯電話の小型放射アンテナによりる頭部がRFの近傍電磁界にばく露されることにともなう問題に注目が集まっています。またパルス変調または振幅変調のRF電磁界へのばく露が特異的な健康影響を起こすのではないかという懸念も根強くあります。
社会の発展と共に特定技術の利用が拡大し、静的な電界及び磁界へのばく露が増加しています。それは特に、産業、輸送、送電、研究、医学で起きています。静的な電界及び磁界による健康への影響の可能性は、これまで適切に評価されたことがありませんでした。医用装置の急速な普及や、強い静磁界を利用するリニアモーターカー輸送システムのおそらく大規模で差し迫った導入を考えれば、あらゆる健康影響について適切に評価する必要があります。
世界保健機関(WHO)は一般市民の健康を守るという憲章に則り、またEMFばく露による健康への影響に関する一般市民の懸念に対応するために、1996年に国際EMFプロジェクトを発足し、周波数範囲0~300GHzのEMFが健康に影響を及ぼす可能性に関する科学的証拠の評価に着手しました。国際EMFプロジェクトでは、重要な知識の欠落部分を埋め、国際的に受け容れられるEMFばく露制限基準の策定を促進する重点的な研究を奨励しています。
プロジェクトの目標
国際EMFプロジェクトの主要な目標は次のとおりです。
- EMFばく露が健康に影響を及ぼす可能性についての懸念に対し、国際的に協調して対応する。
- 科学論文を評価し、健康への影響に関する状況報告書を作成する。
- 健康リスク評価を改善する上でさらに研究する必要がある知識の欠落部分を特定する。
- 資金提供機関と共同して重点的な研究プログラムを促進する。
- 研究結果を取り込んだWHOの環境保健クライテリアモノグラフにおいて、EMFばく露に関する正式な健康リスク評価を仕上げる予定とする。
- 国際的に受け容れられるEMFばく露基準の策定を促進する。
- 各国およびその他の管轄当局に向けて、EMF防護プログラムの管理に関する情報を提供する。それにはEMFリスク認知・コミュニケーション・管理に関するモノグラフが含まれる。
- 各国の管轄当局、その他の機関、一般市民、労働者に対し、EMFばく露に起因するあらゆるハザードおよび必要とされる緩和措置について助言を提供する。
プロジェクトの活動
国際EMFプロジェクトの使命は、周波数範囲0~300GHzの静的または時間変化する電界及び磁界へのばく露が健康と環境に及ぼす影響を評価することです。その目的のために周波数範囲を、静的(0 Hz)、超低周波(ELF、>0 ~ 300 kHz)、中間周波(IF、>300 Hz ~ 10MHz)、無線周波(RF、10 MHz ~ 300GHz)の電磁界に分類しています。
国際EMFプロジェクトは、ジュネーブ(スイス)にある世界保健機関(WHO)本部に拠点を置いています。これはWHOが国連に属する機関として唯一、人々の非電離放射線ばく露による健康への悪影響を調べる明確な使命を持つ機関だからです。このプロジェクトは「健康安全と環境(HSE)」クラスター内の「公衆衛生と環境(PHE)」部に属しています。
資金提供
資金は、WHO加盟国とWHO認定の非政府組織が拠出しています。
経過報告書
EMFプロジェクト事務局
国際EMFプロジェクトの管理は、ジュネーブにあるWHO放射線環境部(訳者注:現在名は公衆衛生と環境部)の放射線プログラム長が行っています。プロジェクト事務局はすべての活動を促進し、国際諮問委員会とプロジェクト貢献者に定期的に報告書を提出しています。WHOの各地域局も可能な場合には活動に参加し、管轄地域の国々とコミュニケーションを促進しています。
WHOのスタッフは調整およびプロジェクト管理を行い、問い合わせに対する対応も行います。さらに、レビュー作業グループ会議および重要な研究会議の組織と開催、報告書やパンフレットの作成と刊行、モノグラフや科学的報告書の作成と刊行の取り纏め、研修プログラムの作成と実施の支援(特に開発途上国において)、コンサルタント、協力機関、重要な研究所に必要とされる資料の作成を手配するなどを行っています。
WHOの科学者スタッフ、コンサルタント、協力機関が一次報告書を作成し、それを専門家グループによるレビュー会議で検討します。それぞれの専門家グループ会議報告書の内容には、関連科学論文の批判的レビュー、これまでに実施された研究の状況、健康および環境リスク評価の改善に必要な今後の研究を推進するための知識の欠落部分の特定が含まれます。報告書の更新版および修正版は、WHOの会議録およびテーマ別報告書として刊行し、必要な場合には査読付きの国際的学術誌に公表します。
WHOスタッフは、幅広く配布するという目的のため、専門家グループのレビュー会議で得られた情報を利用して、情報パンフレット、公衆衛生や労働衛生のプログラムの手引き、研修資料、現在の研究および関連情報の最新版等々の草案を作成します。
EMFプロジェクトに参加している国と組織
What is The International EMF Project?
https://www.who.int/initiatives/the-international-emf-project/participating-countries-entities


WHOアフリカ地域局
WHOアメリカ地域局(AMRO)
WHO東南アジア地域局 (SEARO)
WHOヨーロッパ地域局(EURO)
WHO東地中海地域局
WHO西太平洋地域局 (WPRO)
国際的機関
ICNIRP

国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)
ICNIRPは、人間と環境のための非電離放射線(NIR) 防護の促進を目的に、国際放射線防護学会(IRPA)が設立した独立科学委員会です。ICNIRPはNIRばく露の防護に関する科学的ガイダンスと推奨を提供し、科学に基づくNIRばく露の国際的ガイドラインと限度値を独立的に作成し、IRPAとの密接な協力関係を通じて全世界の放射線防護の専門機関を代表しています。
ICNIRPはNIRに関する非政府組織として、WHOと国際労働機関(ILO)が正式に認めた組織です。
IARC

国際がん研究機関(IARC)
IARCの放射線とがん部門は、放射線の発がん作用について、ばく露パターン、放射線のタイプ、宿主(ばく露を受ける生物)および環境の影響修飾因子を関数として研究しています。
この研究の目的は、放射線防護の基礎を強化し、生物学的な発がんメカニズムの理解を深めることにあります。EMFに関するこの部門の主な活動は、INTERPHONE研究、すなわち携帯電話によるRFばく露との関係における脳腫瘍、聴神経鞘腫、耳下腺腫瘍のリスクの多国間症例対照研究の実施です。
UNEP

国連環境計画(UNEP)
UNEPは、将来の世代の生活の質を悪化させることなく世界各国の人々が自分の生活の質を向上させるために、啓発を行い、情報を与え、実現する力を持たせることよって、環境を大事にすることのリーダーシップをとり、パートナーシップを促進しています。
ILO

国際労働機関(ILO)
ILOは社会正義の推進という理想のために戦います。ILOは、対等の立場で参加している労働者代表と経営者代表、そして政府代表の3者から成る組織です。ILOの大きな特徴の1つは基準策定活動です。60件余りの国際協定および勧告は、労働上のハザードからの労働者保護に関するものです。ILOでは「労働安全衛生シリーズ」として、労働上で電磁界にばく露する労働者の保護に関する指針やマニュアルを多数刊行しています。
ILOが国際EMFプロジェクトに参加する目的は、労働に関する国際協定および勧告に示された原則の実現を推進すること、プロジェクトの実施に経営者と労働者双方の組織を関与させて労働者のニーズが十分にプロジェクトの結果に反映されることを確保することにあります。事務局レベルではILOからの共同出資が予定されており、それは臨時財源から選ばれたプロジェクト刊行物に対して行われる予定です。
ITU

国際電気通信連合(ITU)
ITUは無線通信設備の開発と効率的運用を促進しています。ITUは各国政府と無線通信業界に助言する責任を負う国際機関として、EMFによる健康への影響の可能性をめぐる論争を承知しており、この問題に関する十分な情報を蓄積する作業委員会(ITU研究グループ5)を設置しています。ITUは現在及び将来の通信システムについて多くの情報を持っており、EMFプロジェクトの大きな助けになると考えられます。
EC

欧州委員会(EC)
新興及び新規に同定された健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR)
「新興及び新規に同定された健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR)」は、欧州委員会の健康消費者保護総局が運営する3つの独立した非食品関係の委員会の1つです。この科学委員会はたとえば新しい技術、医用装置、物理的リスク、リスク評価方法などに関する問題について欧州委員会に科学的助言を提供します。委員会の科学諮問手続きは、科学的卓越性、独立性、透明性の原則に基づいています。
IEC

国際電気技術委員会(IEC)
1906年設立の国際電気技術委員会(IEC) は、すべての電気電子技術と関連技術について国際標準を作成し刊行する世界的機関です。IECの使命は、標準に対する適合性の評価など電気技術の標準化と関連事項におけるすべての問題について、そのメンバーを通じて国際協力を促進することです。
IEC憲章は、エレクトロニクス、磁気及び電磁気、電子音響、マルチメディア、無線通信、エネルギー生産と分配などあらゆる電気技術に加え、用語と記号、電磁両立性、測定と性能、信頼性、設計と開発、安全、環境など関連する一般的分野を含んでいます。
WHOの協力機関
国際EMFプロジェクトの協力機関としてWHOが認めた独立科学組織は次のとおりです。