研究
周波数スペクトルの多くの部分について、ばく露が健康に影響を及ぼす可能性に関する研究が幅広く行われています。これまでに行われてきたすべてのレビューからは、0~300GHzの周波数全域において、ICNIRP(1998年)のEMFガイドラインが勧告した限度値未満のばく露であれば、健康への既知の悪影響をもたらすことはないことが明らかになっています。しかし知識にはまだ欠けている部分があり、より適切な健康リスク評価を行うためにはその欠落部分を埋めることが必要です。

国際EMFプロジェクトの科学分野での取り組みは、以下の目標とその関連活動を目指すものです。
科学的レビュー
目的
以下を明らかにすることを主な目的として、国際的な科学的レビューを実施しました。
- 論文から確証が得られた健康影響
- 健康に影響を及ぼす可能性が示唆されている生物学的作用のうち、通常の生活環境や労働環境で発生する低レベルのEMFばく露が健康に影響を及ぼすかどうかを判断するには、なお調査が必要であるもの
作業目標
- 科学の現状をレビューする
- 健康リスク評価をより適切に行うためにさらに研究を必要とする知識の欠落部分を特定する
- 上記で特定した分野について重点的な研究を促す
成果物
ICNIRPが刊行する科学会議の会議録
ピアレビュー付きの学術誌に発表された作業グループ報告書。この報告書には、科学の現状、さらに研究が必要な知識の欠落部分、優先すべき研究アジェンダが記述されている。 WHOは国際EMFプロジェクトを通じて、電磁界ばく露が生物や健康に及ぼす影響を扱った科学論文の国際的で詳細なレビューを以下のとおり実施してきました。
- RF電磁界の生物学的作用およびそれと関連する健康リスクに関する国際セミナー。ミュンヘン、ドイツ、1996年11月20~21日
- 静的またはELFの電界及び磁界の生物学的作用およびそれと関連する健康リスクに関する国際セミナー。ボローニャ、イタリア、1997年6月4~5日
- 電磁界と非特異的症状に関する国際ワークショップ。グラーツ、オーストリア、1998年9月19~20日
- 周波数範囲300Hz~10MHzの電磁界による健康への影響に関する国際セミナー。マーストリヒト、オランダ、1999年6月7~8日
- 電磁界が生活環境に及ぼす影響に関する国際セミナー。イスマニング、ドイツ、1999年10月4~5日
- パルス無線周波電磁界ばく露の健康への影響と基準に関する国際セミナー。エーリチェ、イタリア、1999年11月21~27日
- 人体における有害な温度レベルに関するワークショップ。WHO ジュネーブ、スイス、2002年3月21~22日
- EMFばく露に対する小児の感受性に関するWHOワークショップ。イスタンブール、トルコ、2004年6月9~10日
- EMF過敏症に関するWHO国際セミナーと作業グループ会議。プラハ、チェコ共和国、2004年10月25~27日
- 科学的不確かさがある分野における公衆衛生政策の指針に関するワークショップ。オタワ、カナダ、2005年7月11~13日
健康リスク評価
Health Risk Assessment
https://www.who.int/teams/environment-climate-change-and-health/radiation-and-health/non-ionizing/emf/health-risk
はじめに
EMFを放射する技術が生み出す健康リスクについてのWHOの評価は、国際EMFプロジェクトの責任範囲になります。したがって、国際EMFプロジェクトの目的の1つはRF、ELF、静的の電磁界について健康リスク評価を行うことであり、その結果を環境保健クライテリアとして発表しています。
健康リスク評価は、独立した立場にある科学的ピアレビューグループが実施した詳細で批判的なレビューの結果です。通常、このようなレビューが行われるのは、評価を大きく変化させる可能性がある新しいデータが得られた場合、ある因子のばく露が大きくなったために、その因子による健康や環境への影響について一般市民に懸念がある場合、または前回の評価から十分な時間が経過した場合です。
EMFに関するEHC (環境保健クライテリア) の改訂版は、関連するEMF周波数(0~300GHz) の全範囲にわたる3件のモノグラフを揃えて刊行しています。
環境保健クライテリアプログラム
WHOの環境保健クライテリアプログラムは、1973年に、以下の目的で開始されました。
- 環境汚染物質へのばく露と人の健康との関連についての情報を評価し、ばく露限度値の設定に関するガイドラインを提供する。
- 新しい汚染物質や潜在的な汚染物質を同定する。
- 汚染物質による健康への影響に関する知識の欠落部分を同定する。
- 国際的に比較可能な結果を得るため、毒性学および疫学における研究手法の調和を促進する。
最初の環境保健クライテリア(EHC)モノグラフは水銀に関するものであり、1976年に刊行しました。それ以来、化学的または物理的な因子に関する多数の評価書を作成しています。また多くのEHCモノグラフを、たとえば遺伝子性、神経毒性、催奇性、腎毒性などの作用を持つ因子に関する毒性学的方法の評価に絞って作成しています。それ以外には、疫学的ガイドライン、発がん性物質の短期試験の評価、バイオマーカー、高齢者への影響などに関して刊行しています。
環境保健クライテリアプログラム発足のそもそものきっかけは、世界保健総会決議と1972年の国連人間環境会議の勧告でした。その後この活動は、UNEP、ILO、WHOの共同プログラムである国際化学物質安全性計画(IPCS)の重要な一部となりました。新しいパートナー機関の力強い支援を得て、労働衛生と環境影響の重要性は十分に認められるようになりました。EHCモノグラフは全世界で広範に定着し、利用され、認められています。
電磁界に関する環境保健クライテリア(EHC)
現在までに、他機関との協力により、6つのモノグラフを作成しています。このEHCモノグラフは、静的、超低周波(ELF)、無線周波(RF)の電磁界へのばく露が健康に影響を及ぼす可能性を取り扱っています。
- 環境保健クライテリア238(2007年):超低周波(ELF)電磁界
WHO、ジュネーブ、スイス、ISBN 978-92-4-157238-5 - 環境保健クライテリア232(2006年): 静電磁界
WHO、ジュネーブ、スイス、ISBN 92-4-157232-9 - 環境保健クライテリア137(1993年):電磁界(300 Hz~300 GHz)
WHO、ジュネーブ、スイス、ISBN 92-4-157137-3 - 環境保健クライテリア69(1987年):磁界
WHO、ジュネーブ、スイス、ISBN 92-4-154269-1
範囲
EHCモノグラフは物理的、化学的、生物学的因子が人間の健康や環境に及ぼす影響の批判的レビューを提供することを目的としています。したがってEHCモノグラフは、評価に直結する関連性をもつ研究を取り上げ、レビューしています。一方、これまでに行われたすべての研究を記述してはいません。また全世界のデータを原著論文から引用して使用し、会議抄録や総説からのものは使用していません。報告書は公表済み、未公表のどちらも考慮に入れていますが、常に公表されたデータの方を優先しています。当を得た公表データがない場合や、未公表のデータがリスク評価にきわめて重要である場合には、未公表のデータだけを使用しています。未公表の知的所有権のあるデータの使用手続きを明示した詳細な方針声明が有効であるため、このような情報もその機密性を損なうことなく評価に使用することができます。
人の健康リスクを評価する場合、健常人でのデータがあれば動物データよりも全般的に情報量は多いです。動物研究やインビトロ研究は補助的な役割であり、人での研究では得られていない証拠を提供するために主に用います。人を被験者とする研究は、ヘルシンキ宣言を含む倫理綱領に完全に準拠して行う義務があります。
影響を肯定するものであれ否定するものであれ、全ての研究はそれぞれの真価によって評価・判定されなければなりません。その上で証拠の重さの取り扱い方法を決めて集合的に評価・判定されなければなりません。どの程度の証拠が揃えば、ばく露が何らかの結果を引き起こすという見込みを変更するかを決定することは重要です。全体として、研究は再現されるか、類似の研究と一致しなければなりません。異なるタイプの研究(疫学と実験のように)の結果が同じ結論を指し示していれば、その影響についての証拠はさらに強固なものになります。
EHCモノグラフは、各国の管轄当局や国際機関がリスク評価とそれに続くリスク管理の意思決定を行うことを支援するためのものと考えています。モノグラフはリスクの徹底的な評価であって、いかなる意味でも規制や基準策定に向けた勧告ではありません。規制や基準は、国や地域それぞれの政府の独占的権限です。
手順
EHCモノグラフの刊行までの一般的な手順を以下で説明します。
RAD協力センターのコンサルタントまたはスタッフが作成した第一稿は、MedlineやPubMedといった参照データベースから提供されたデータを基にしています。RADが受け取ったこの草稿は、その科学的品質と客観性を判断するために少人数の専門家委員会による最初のレビューを受ける必要があります。その文書が第一稿として受付けられれば、世界中の150カ所を十分に上回るEHCコンタクトポイントに未編集のまま文書を配布し、その文書の完全性と正確性について意見を求めるほか、必要な場合には追加資料の提供を要請します。通常、各国の政府が任命するコンタクトポイントは、WHO協力機関または特定の専門性で知られた科学者個人になります。寄せられた意見を著者(達)が検討するのに一般的には数ヶ月の期間を設けます。そして、意見を組み込んだ第二稿をコーディネーター(RAD)が受け取り、承認した後、タスクグループのメンバーに配布します。そのメンバーは少なくとも6週間をかけて第二稿のピアレビューを行い、その上で会議を開きます。
タスクグループのメンバーは、それぞれの組織の代表としてではなく、個人の科学者として役割を果たします。彼らの任務は、文書中の情報の正確性、重要性、妥当性を吟味すること、ならびに電磁界スペクトル内の取り組んでいる周波数区分へのばく露による人と環境のリスクを評価することです。要約作成および今後の研究や安全面の改善についての勧告も要請されます。タスクグループの構成は、会議の主題に必要な専門性の範囲(疫学、生物学、物理学、医学、公衆衛生)と、性別、地理的分布、科学に対する見解の幅におけるバランスを考慮して決定されます。
WHOタスクグループのメンバーになるには、「持続可能な発展と健康的環境」クラスタ長である副事務総長の承認が必要です。このタスクグループは健康リスク評価を行う上でWHOにおける最上位の委員会です。立場としては、さまざまな種類の物理的、化学的、生物学的因子における「発がん因子の同定と分類」を行う国際がん研究機関(IARC)の作業グループと同じです。
タスクグループは科学論文のレビューを批判的かつ綿密に行い、静的な電界及び磁界両方のばく露の健康へのリスクを評価し(訳者注:これは静電磁界タスクグループの場合の説明と理解して下さい。)、総意による合意に達し、最終的な結論と勧告を作成します。この結論と勧告は、タスクグループ会議後には変更できません。
世界保健機関は非政府組織(NGOs)が果たすべき重要な役割を認識しています。関係する各国の管轄当局や国際機関の代表者をタスクグループに招き、オブザーバーとして参加してもらうこともあります。オブザーバーはこのプロセスに貴重な貢献をしていますが、議長が促した場合しか発言できません。また最終的な評価判定はタスクグループメンバーだけの責任で行われ、オブザーバーは参加しません。タスクグループが必要と判断した場合は非公開で会議を行うことができます。
EHCモノグラフの作成に著者、コンサルタント、アドバイザーとして参加するすべての個人は、科学者としての個人的能力によって役目を果たすことに加えて、自分の仕事において、現実のものであれ可能性のものであれ、利益相反に気づいたときにはいつでもそれをWHOに通知しなければなりません。彼らは利益相反宣誓書に署名を求められます。この手順によってEHC作成プロセスの透明性と誠実性が確保されます。
タスクグループがレビューを完了し、コーディネーター(RAD)が文書は科学的一貫性と完全性が十分であると判断し、その後に言語の校訂、参考文献のチェックを経て印刷稿が作成されます。担当部長の承認後、モノグラフは印刷のためWHO事務局の出版局に提出されます。それから最終稿のコピーがタスクグループの委員長と報告担当官に送付され、校正刷りがチェックされます。
無線周波(RF)電磁界に関する研究
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環境保健クライテリアモノグラフ
世界保健機関(WHO)は、「環境保健クライテリア」シリーズのモノグラフとして発表するため、無線周波(RF)電磁界の健康リスク評価を実施している。この発表は、「静電磁界(2006年)」および「超低周波電磁界(2007年)」に関するモノグラフを補完するものであり、また「無線周波(RF)電磁界(1993年) 」に関するモノグラフを更新するものです。 -
無線周波(RF)電磁界への曝露による潜在的な健康への悪影響の評価に関する国際調査(2018年6月)
WHOは、最も重要な潜在的な健康への悪影響に関する有効な証拠を分析・統合する複数の系統的レビューを委託する予定です。入手可能なリソースとプロジェクトのスケジュールを考慮すると、これらの健康影響を適切に選択することが、有用なモノグラフを制作するための鍵となります。
健康影響の優先順位を決定させるため、WHOは「無線周波(RF)電磁界のばく露と健康」に関する専門家の意見を求め、「無線周波(RF)電磁界のばく露による潜在的な健康への悪影響の評価」と題するオンライン調査を実施し、体系的に取り組むべき健康影響の優先順位付けに役立てました。
300人以上のRFの専門家が招待され、167件の回答が寄せられました。現在、査読付き出版物への投稿に向けた論文の最終調整中です。 - 次期WHO環境保健基準の科学的レビューに関する協議(2013年秋)
パブリックコメントの受付は終了しました。
世界保健機関(WHO)は、「環境保健クライテリア」シリーズのモノグラフとして発表するため、無線周波(RF)電磁界の健康リスク評価を実施しています。この発表は、「静電磁界(2006年)」および「超低周波電磁界(2007年)」に関するモノグラフを補完するものであり、また「無線周波(RF)電磁界(1993年)」に関するモノグラフを更新するものです。
この文書の科学的内容を含む草案の各章は、現在、 RFの専門家の技術的協議のために公開されています。これらの章に記載されている情報の正確性と完全性について、コメントを募集しています。文献検索は2012年12月(一部は2013年12月)までに行われているため、より最近の研究は現時点ではまだ含まれていません。文書の最終決定前に検索結果と章は更新されますが、査読済みの研究を含めるための提案は歓迎いたします。
各章の作成に使用されたプロセスは、付録 X に記載されています。要約、健康リスク評価、防護対策に関する内容である、第 1 章、第 13 章、第 14 章は、今回の協議には使用されないことに留意されたい。文献からの結論の導出とこれらの章の草案作成は、このプロセスで後日 WHO が招集する正式なタスクグループの任務です。
ご質問がありましたら、こちらまでご連絡ください:emfproject@who.int -
無線周波(RF)電磁界政策に関する国際調査(2012-2013年)
WHOの無線周波(RF)電磁界のモノグラフに関連して、時間経過による進捗状況を判断するための基準値を設定するため、無線周波(RF)電磁界に関する各国のリスクマネジメント政策と実務の概要が2012年にまとめられました。
この目的のため、2012年秋に、無線周波(RF)電磁界を発生する機器からの個人ばく露、固定設備からの環境ばく露および職場環境ばく露に関する各国の政策に関する情報を収集するための調査が実施されました。
成果
- WHOの全地域を代表する86カ国からのデータを収集、分析し、査読付きジャーナルで発表されました。
- WHOは、2013年6月にフランスのパリにあるフランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)で、利害関係者がこのプロジェクトで取り上げる特定の質問について意見を述べる機会を提供するためのセミナーを開催しました。
研究アジェンダ
Research agenda
https://www.who.int/teams/environment-climate-change-and-health/radiation-and-health/non-ionizing/emf/research-agenda
はじめに
Introduction
電磁界(EMF)による健康影響の可能性に関して科学的疑問と一般市民の懸念があるため、いくつかの国は研究プログラムに資金提供を行っており、さらに場合によってはこの問題に関する研究に資金援助するための財団を設立しています。
努力の不要な重複を避け、すべての重要問題が研究されることを確実にするために、世界レベルで研究を調整することが重要です。そのために国際EMFプロジェクトは各国および国際的な主要の資金提供機関と協力して、世界レベルの調整と計画中や進行中のプロジェクトの情報交換を行う包括的仕組みのようなものを提供しています。
多くの大規模な研究資金提供機関は、研究への資金提供の根拠としてWHOの研究アジェンダを利用しています。この研究アジェンダを達成するため、1997年以来2億ドルを超える研究資金提供が実行されました。
無線周波(RF)電磁界の研究アジェンダ
超低周波(ELF)電磁界の研究アジェンダ
静電磁界の研究アジェンダ
背景
国際EMFプロジェクトは、1996年、EMFの健康への影響の可能性を評価するために発足しました。同プロジェクトは国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)と協力して、電磁界(EMF)ばく露の健康影響の可能性について初めての国際的な科学論文レビューを完了し、EMFばく露による健康ハザードに関する暫定的な結論を示しました。このレビューでは、低レベルEMFばく露、特に長期のばく露に人の健康に対する悪影響があるか否かについて未解決の問題を提起した研究も同定しました。これらのレビューは、周波数スペクトルの別々の区域をカバーしました。
無線周波(RF:>10 MHz ~ 300 GHz)、ミュンヘン 1996年
静的及び超低周波(ELF:>0 ~ 300 Hz)、ボローニャ 1997年
中間周波(IF:>300 Hz ~ 10 MHz)、マーストリヒト 1999年
詳しくは、WHOが資金提供しているセミナーの会議録を参照してください。
最初の研究アジェンダは、1997年12月4~5日にジュネーブで開催された特別研究調整会議の結果として作成されました。この会議では、WHOの健康リスク評価要件を満たした進行中の研究に注目し、これが科学論文レビューで明らかになった研究ニーズと比較しました。そこで、進行中の研究の以外になおWHOが必要とする新たな研究が示され、それが最初の研究アジェンダの基礎になりました。
それ以降、EMF周波数範囲の別の区域についての研究アジェンダは定期的見直しと微調整がなされています。2003年6月、専門家特別会議でRF研究アジェンダ改訂版が作成されました。2004年6月にイスタンブール(トルコ)で開催されたWHOワークショップを受けて、成人よりも子供の方がEMFに対する感受性が高いかも知れない可能性というテーマの研究アジェンダも作成されました。電磁過敏症のテーマに関する研究ニーズは、2004年10月のプラハでのWHOワークショップを受けて編集されました。2005年後半のジュネーブでの専門家特別会議では、複合RF研究アジェンダが作成され、公表されました。静電磁界研究アジェンダと超低周波(ELF)電磁界研究アジェンダは、それぞれ2004年12月と2005年10月に完了したWHO健康リスク評価の研究勧告にしたがっています。
研究ニーズを決定するプロセス
国際EMFプロジェクトが健康リスクを評価する際に用いるクライテリアは、WHOの国際がん研究機関(IARC)のものを翻案して作られています(RepacholiとCardis 1997年)。健康リスクを示す証拠が示唆的であるものの、健康リスク評価のクライテリアを満たすには不十分であると判定された場合、研究ニーズが同定されます。健康にとって意味を持つが確証の得られていない影響、および重要なポジティブまたはネガティブな影響を確認するために行う重要な研究の再現を根拠に研究ニーズが確立されます。したがって総合的目標は、人において起きる発生する見込みがあり、かつ健康への悪影響の可能性をもつようなEMFばく露の影響が再現されることを実証する研究を促進することです。
研究ニーズは、疫学、実験研究、ドシメトリなどいくつかの異なる研究のタイプを含んでいます。これらの全てが、健康に対する悪影響の可能性の同定においても、防護の必要性とその適切なレベルに関する情報の提供においても、個別的および集合的に重要な役割を果たします。インビトロ研究は低レベルEMFばく露による生物学的作用の基礎的メカニズムについて重要な洞察を提供できますが、一方、インビボ研究は、動物であれ人であれ、健康への悪影響についてより説得力のある証拠を提供します。疫学研究は、人における悪影響のリスクに関する最も直接的な情報を提供します。ただし疫学研究は、特に低い相対リスクを見つける場合に限界があります。
WHOは、科学論文レビューおよび環境保健クライテリアの両方において知識の欠落部分を同定するに際し、全世界で発表された科学論文を取り込むよう努力します。ロシアや中国など刊行物が英語圏には届きにくく、そのため多くのEMFレビューに引用されることが少なかった国々の研究のレビューにも努めています。
一般市民に対する健康ハザードの懸念、潜在的公衆衛生ハザードの重大性を(ばく露の可能性がある人口集団の規模、そのばく露の程度、仮定されている悪影響の深刻度に基づいて)調査するように計画された研究、および科学的重要性の研究(たとえば、観察された影響またはインビトロやインビボの研究結果に基づいて主張されるメカニズムの妥当性を試験する研究など)に高い優先順位を与える必要があります。
研究プロジェクトの品質
新しい研究が健康リスク評価や基準の設定にとって有用であるためには、その研究は科学的に高品質でなければなりません。そのためには、明確に定義された仮説、小さい影響の検出力の見積り、適切な科学的実践に一致するプロトコルの使用が必要です。品質保証の手順はプロトコルに含まれていて、研究を行っている間、その手順は監視されています。
現在と以前の研究アジェンダ
静電磁界
- 静電磁界研究アジェンダ(2006年)
超低周波電磁界
- ELF電磁界研究アジェンダ(2007年)
無線周波電磁界
- RF研究アジェンダ(2010年)
- RF研究アジェンダ(2006年)
- RF研究アジェンダ(2003年)
小児EMF研究アジェンダ
- 小児EMF研究アジェンダ(2004年)
(注意:この研究アジェンダはすべての周波数範囲をカバーしています。そのため、2006年の研究アジェンダに統合されました。)
参考文献
- 世界保健機関(2007年):環境保健クライテリアNo.238、超低周波電磁界
- 世界保健機関(2006年):環境保健クライテリアNo.232、静電磁界
- Repacholi MH 編(1998年):無線周波電磁界への低レベルばく露:健康への影響と研究ニーズ、Bioelectromagnetics, 19: 1-19.
- Repacholi MH & Greenebaum B 編(1998年):生物に対する静電磁界および超低周波電磁界の相互作用:健康への影響と研究ニーズ、Bioelectromagnetics(投稿中)(訳者注:20: 133-160)
- Repacholi MH & Cardis E(1997年):EMF健康リスク評価のクライテリア、Radiat Prot Dosim, 72: 305-312.
- Valberg PA(1995年):EMF実験の設計:「ばく露」の特性記述に何が必要か?、Bioelectromagnetics, 16: 396-401.
- NTP(1992年):国家毒性プログラム(NTP)において実験動物で化学的、生物学的、物理的因子の潜在的毒性及び発がん性を評価する研究の実施仕様。添付文書 2。1992年8月 (9/95までの修正を含む)。以下から入手可能:国立環境衛生科学研究所、環境毒性プログラム、PO Box 12233, Research Triangle Park, NC 27709, USA.
WHOが資金提供したイベントやセミナーの会議録
- 「基地局と無線ネットワーク:ばく露と健康への影響」、基地局と無線ネットワークに関する国際ワークショップの会議録、WHO ジュネーブ、スイス、2005年6月15~16日; M.H. Repacholi, E. van Deventer, P. Ravazzani (編) 世界保健機関 2007年, ISBN 978-92-4-159561-2 PDF
- 「電磁過敏症」、EMF過敏症に関するWHO国際セミナーと作業グループ会議の会議録、プラハ、チェコ共和国、2004年10月25~27日; K.H. Mild, M.Repacholi, E. van Deventer, P. Ravazzani (編) 世界保健機関 2006年, ISBN 92-4-159412-8 PDF
- 「人体における有害な温度レベル」、International Journal of Hyperthermia誌の特別号として刊行、ジュネーブ、2002年.
- 「パルス無線周波電磁界ばく露の健康への影響と基準」、パルス無線周波電磁界ばく露の健康への影響と基準に関する国際セミナーの会議録、エーリチェ、イタリア、1999年11月21~27日 ; R. Matthes, J.H. Bernhardt, M.H. Repacholi (編) 国際非電離放射線防護委員会 2001年, 3-934994-00-8
- 「電磁界が生活環境に及ぼす影響」、電磁界が生活環境に及ぼす影響に関する国際セミナーの会議録、イスマニング、ドイツ、1999年10月4~5日 ; R. Matthes, J.H. Bernhardt, M.H. Repacholi (編) 国際非電離放射線防護委員会 1999年, ISBN 3-9804789-9-8
- 「周波数範囲300 Hz~10 MHzの電磁界による健康への影響」、周波数域300 Hz~10 MHzの電磁界による健康への影響に関する国際セミナーの会議録、マーストリヒト、オランダ、1999年6月7~8日 ; R. Matthes, E. van Rongen, M.H. Repacholi (編) 国際非電離放射線防護委員会 1999年, ISBN 3-9804789-7-1
- 「電磁界と非特異的健康症状に関する国際ワークショップの会議録」、グラーツ、オーストリア、1998年9月19~20日 ; N. Leitgeb (編) COST 244 bis (European Cooperation in the Field of Science and Technical Research), 1998年 PDF
- 「EMFリスク認知とコミュニケーション」、EMFリスク認知とコミュニケーションに関する国際セミナーの会議録、オンタリオ州オタワ、カナダ、1998年8月31日~9月1日; M.H. Repacholi, A.M. Muc (編), WHO 1999年, WHO/SDE/OEH/99.01
- 「リスク認知、リスクコミュニケーション、及びEMFばく露へのその応用」、リスク認知、リスクコミュニケーション、及びEMFばく露へのその応用に関する国際セミナーの会議録、ウィーン、オーストリア、1997年10月22~23日 ; R. Matthes, J.H. Bernhardt, M.H. Repacholi (編) 国際非電離放射線防護委員会 1998年, ISBN 3-9804789-4-7
- 「静的またはELFの電界及び磁界の生物学的作用」、静的またはELFの電界及び磁界の生物学的作用とそれに関連する健康リスクに関する国際セミナーの会議録、ボローニャ、イタリア、1997年6月4~5日 ; R. Matthes, J.H. Bernhardt, M.H. Repacholi (編 国際非電離放射線防護委員会 1997年, ISBN 3-9804789-3-9
- 「RF電磁界の非熱的作用」、RF電磁界の生物学的作用とそれに関連する健康リスクに関する国際セミナーの会議録、ミュンヘン、ドイツ、1996年11月20~21日 ; J.H. Bernhardt, R. Matthes, M.H. Repacholi (編) 国際非電離放射線防護委員会 1997年, ISBN 3-9804789-2-0