最近の新聞に、『太陽まもなく「冬眠」』の見出しで『太陽の活動が約11年周期で活発になることは良く知られていますが、現在、その活動が不活発になる「冬眠」の準備に入ったのではないか』という興味ある記事が掲載されました。

太陽が活発になると、太陽で発生する強い磁界によって地球の気象に大きく影響を及ぼすことが懸念されています。

太陽と地球の環境変化

1989年3月13日の夜中、カナダのケベック州にある発電所が突然ダウンし、大規模な停電が発生しました。この停電は、600万人の人々に影響を与え、被害総額は700億円を超えたとされています。原因は、周期的に太陽の表面に現れる黒点で発生する強い磁界とされています。その磁界は、太陽面での爆発(フレア)を引き起こし、放出された太陽風(イオン粒子の流れ)が地球に襲い掛かり、大電流が電離層に流れ、地表に達し、突発的な停電を引き起こしたとされています。このように、地球を取り囲んでいる宇宙の環境変化が我々の社会生活に大きな影響を与えることが考えられることから、現在は宇宙の環境変化を予測する「宇宙天気予報」が検討され、(独)情報通信研究機構に宇宙天気情報センターが設けられています。それによって、電力系統や通信線・航空通信、GPS・気象予測、人工衛星への障害などに対する予報が試みられているようです。 ちなみに、1989年以前にも電力系統や通信線に磁気嵐が障害を与えた例が見られていますが、これについては文献を参考にしてください。

緯度が低い日本では、オーロラを見る機会はほとんどありませんが、太陽の環境変化による障害は生じるのでしょうか。

我々が住む地球は、約46億年前に太陽系の一惑星として誕生しました。地球の原始大気は、じわじわと地殻から吹き出した火山ガスからなり、その主な成分は二酸化炭素と水蒸気であったと推測されています。何億年かの時の流れの中で、その水蒸気は凝集して水となり、地表面の約70%を覆う海洋が形成され、地球は水の惑星に変貌していきました。また、大気中の二酸化炭素は、藍藻や緑藻の光合成作用によって次第に酸素に置き換えられていきました。 こうして、生物の存在を可能とする水と酸素の豊富な地球環境が形成されたと考えられています。

太古の地球では、天空から強烈な紫外線が降り注いでいたと言われています。紫外線の強いエネルギーによって生命の出現が阻まれたことから、最初の生命は紫外線の到達し得ない海の中で誕生したとされています。それは藍藻の化石として、約20億年前の岩石中に発見されています。また、その岩石の中には、葉緑体の分解生成物と思われる高分子炭化水素の存在も確認されており、その頃にはすでに光合成が存在していたものと考えられています。この光合成による大気酸素の増加は、生物にとって第二の重要な環境の変化をもたらしました。それは、大気上層の酸素が太陽からの紫外線の影響を受けてオゾンとなり、地球周辺にオゾン層が形成されたことです。 オゾン層は紫外線を遮蔽することから、これによって生物が陸上でも生存できるおだやかな地球環境が形成されたとされています。

我々の住む地球は、その性質によって何層かに分けられる大気層によって覆われています。地表から約12kmの高度までが対流圏と呼ばれ、ここでは気象現象が卓越しており、大気は海や大地から熱を得て上昇し、膨張して冷え、水分の凝結で雲や雪や雨となっています。対流圏では、気象現象による静電気が発生し、地表面では約100V/mの電界が発生しています。また、大気は絶縁体をなしています。10~50km程度の上空は成層圏と呼ばれ、温度の上昇が見られます。成層圏の内部にはオゾン層が存在し、オゾンが太陽放射に含まれる紫外線を吸収し、大気を加熱することから成層圏が形成されています。成層圏から上、50~100kmを中間圏と呼んでいます。高度80kmくらいから450km付近までの上空は、電離現象が卓越し、電離圏と呼ばれています。ここでは、酸素原子が太陽の紫外線を吸収し、X線の吸収、酸素原子が陽子や電子に衝突して電離現象が起きています。電子密度の分布により、約90km以下をD層、90~140kmをE層、140~400kmをF層と呼んでいます。電離圏では電子やイオンの動きにより、電流が流れやすく、高層大気の潮汐運動や地球磁場の作用で流れる電流によって地磁気の日変動が生じています。

人間も含め、すべての生き物や物体は、その温度で決まる光-電磁波-を出しています。たとえば、体温が37℃(絶対温度:約300K)の私たちは10μmの赤外線を発生しています。1900年代初め、この光の放射の問題を定量的に扱う必要が生じ、黒体-Blackbody-という理想的な物体が考え出されました。黒体による輻射の考え方を完成させたのは、量子力学の創始者の一人であるドイツ人、マックス・プランク(Max Planck:1858~1947)です。黒体とは、外から入射する光エネルギーによる放射を全部の波長にわたって完全に吸収、放出できる物体とされています。このような考えに基づくと、太陽から放射される光エネルギーの波長分布は、約5,780Kの黒体から放射される光エネルギーの波長分布で近似できます。

放射は、電磁波によるエネルギーの伝達であり、地球上での熱の出入りには太陽放射と地球放射が考えられています。太陽は約1.5億kmの彼方から、波長数百nmから数μmにわたる広い周波数範囲の電磁波-太陽の表面温度として5,780K-によって、1分当たり太陽に面した面積1平方m当り、1.95カロリーのエネルギーを地球に供給していることになります。この値は、大きく変わることはありませんし、1平方m当たりで1.36キロワット(kW)の電力に相当します。太陽放射の最大値は波長、約0.475μmにあります。一方、地球はその熱エネルギーによって暖められ、地表や海面、大気からはその温度(255K)に対応した電磁波-波長数μmから数百μm-が宇宙空間に放出されていますが、その地球放射による放射エネルギーと太陽からの入射エネルギーは平衡して、地表の温度は生命の維持に適した一定の温度に保たれています。地球放射は波長約11μmで強度が最大です。また、波長8~12μm領域で地球大気による吸収が弱く、地球大気の外に到達するため、この波長領域は「大気の窓」と呼ばれています。 一方、二酸化炭素は波長2.5~3μm、4~5μmが強い吸収帯をなしており、この吸収帯があることから、地球温暖化の問題として二酸化炭素の増加が議論されています。

進化をうながす電磁波

このような環境の中で、植物は光合成によって大気中の二酸化炭素を固定して酸素を作り、動物はその植物に依存して生命を維持してきました。こうして、地球には、他の惑星では見られない生物圏が構成されたのは、約5億年前のことと言われています。しかし、このような太陽の恵みを受けて育まれた太古の地球環境は生物にとって決して生優しいものではありませんでした。地球上には、多くの種類の強烈な放射線が飛び交っていたからです。このことは、1972年にフランスの原子炉庁によって、アフリカのガボン共和国で発見されたオクロ鉱床の天然原子炉が雄弁に物語ってくれています。驚くべきことに、オクロには、現在の原子力発電に使用されているものと同じ程度の高濃度のウラン鉱があり、自然の核分裂連鎖反応が行なわれていたのです。その核分裂生成物の詳細な調査により、この自然の原子炉は今から約17億年の昔に出現し、60万年の長期間にわたって約30kW相当の原子エネルギーを燃やし続けていたものと推定されています。この天然の原子炉の例から分かるように、太古の地球の表面近くには、濃度の高い放射性物質を含む岩石が多量に存在していました。そのため、地上の放射線環境は極めて厳しかったに違いありません。しかし、十数億年という長い年月の経過によって各種の放射能は次第に消滅し、現在の静穏な地球に落ち着いたものと考えられています。

また、地球上の全ての生物は、はるか天空から降り注ぐ宇宙線にも曝されてきました。幸い、宇宙線は地球磁界や電離層の影響を受けて弱まりますが、ある程度の量-1平方cm当り1秒間1~2個程度-は常に大気を突っ切って生物圏に飛び込んできます。生物は、このように地球の岩石が発する放射線と宇宙から飛来する放射線の中で生存し進化してきました。放射線は生物の生命を脅かすと共に、突然変異を発生させ、それが生物進化の原動力となってきました。現存する生物種は海生、陸生合わせて約200万種を越しますが進化の途中で滅びた生物種の数は、 恐らくその100倍を越すだろうと言われています。

太陽からの電磁波と地球や宇宙からの放射線のほかに、生物は、生命発現の昔から、地球自身が作り出す電界、磁界、空気イオンおよび地球の周辺をかけめぐる周波数の低い電磁波にも曝されてきました。自然放射線が強かった太古には、電離による空気イオンの発生は現状よりはるかに激しかったため、それが生物に与える影響も大きかったと考えられています。また、熱帯的な気象条件の時代や、造山活動の活発な地質時代には、激しい上昇気流や火山の爆発による雷雲の発生も多く、雷による発電現象は現在よりはるかに強烈だったに違いありません。このため地球上には、常に強い静電界や低周波電磁界が存在し、それらは生物の進化に種々な影響を与えてきたものと推測されています。

放射線はその強いエネルギーによって生物の生命を脅かし続けました。しかし、生物は同じ刺激を僅かずつ長期にわたって受け続けると、その刺激に対する対抗力が増大する性質-適応応答-があります。例えば、X線照射によってヒトのリンパ球に生じる染色体異常は、その細胞に前もって弱いX線を照射しておくことで減少することが知られています。これは、細胞が低レベルの放射線に適応応答-DNAの修復-するためと考えられています。 このような現象を放射線ホルメシスと言い、現在も研究が進められています。

電界、磁界および低周波電磁界の持っているエネルギーは、放射線とは比較にならないほど小さく、そのようなエネルギーレベルの低い自然現象に対しては、生物は適応応答のような防御手段としてではなく、生命を維持するための手段として積極的に利用してきたことが推測できます。 例えば、トリの渡りや、魚の回遊には地磁気が利用されている可能性が実験的に調べられ、静電界や空気イオンは生物の成長にも深く関係しているようです。 また、生命の基本的なリズムを作る生物時計の形成には、地球を駆けめぐる低周波電磁界-シューマン波-が深く関係しているのではないかと推測されています。

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