「シューマン共鳴」は、1952年にミュンヘン工科大学のシューマン教授が、大気中での雷放電による低周波帯の共鳴現象を理論的に予測し、弟子のケーニッヒ教授が実験的に明らかにしてきた電離層を舞台にした現象です。

ケーニッヒ教授が行った実験には、後に生体電磁気の研究で有名になる米国・ロードアイランド大学ポルク教授が共同研究者として参加しています。

雷に由来する電磁波

シューマン教授(Winfrield Otto Schumann:1888~1974)はドイツのチュービンゲンで生まれました。若い時には、ドイツ・カッセルやウイーン近くのベルンスドルフやチェコ・プラハ近くのカーリン(ドイツ名:カロリネンタール)で過ごし、1920年に、シュツッツガルトにある工科大学で教授の資格を得ています。その後、ウイーン大学の物理学教授となり、1924年にミュンヘン工科大学の新設の電気物理研究室(その後、電気物理研究所に発展)に移りました。1961年に退官するまで、同研究室の教授として研究に励みました。シューマン教授は、高周波技術・プラズマ物理に興味を持ち、電離層の挙動、プラズマ実験を進め、波の伝播、稲妻によって誘導される電磁波問題を扱い、シューマン共鳴と呼ばれる一連の研究を発表していきました。

この研究は、地球表面と電離層を球殻状の空洞と考え、雷放電で生じる電磁共鳴を理論的に明らかにしたもので、地球の表面と電離層の間で極超長波が伝播する現象です。今日では、理論的に予測したシューマン教授の名前にちなんで、シューマン共鳴と呼ばれています。岩波の理化学辞典によれば、シューマン共鳴は「地表と電離層との間の空間が導波管のはたらきをし、雷放電などで励起されて共振振動を生ずる現象。固有振動の基本周波数は約8Hzである。」とあります。シューマン共鳴の主な発生源は自然の雷放電現象です。下の図は1年間1平方km当たりの地球上への落雷分布の様子を濃淡であらわしており、熱帯地域を中心に絶えず雷が発生していることが分かります。

雷放電は数Hzから数100MHzの幅の広い周波数帯域の電磁波を発生しますが、周波数の低い成分は伝播に伴う減衰が少ないので、地球の周囲を何回も駆け回ります。このため、低周波の電磁波は地球の表面と電離層の下面とで作る球殻状の空洞の中で共振し、定常波が発生します。その共振の基本周波数は、おおまかに、電磁波の伝播速度3×105km/sを、地球の周囲の長さ4×104kmで割った7.5Hz付近にあります。厳密には、電離層の境界面の電気伝導度が有限であること、球殻状の空洞という特殊な形状を持っていることにより、基本周波数は7.8Hzとなります。高次の共振周波数は、シューマン教授により以下の式であらわされました。

基本となる周波数は7.8Hzであり、高調波として13. 5、19.1、24.7、30. 2、35.7、41.3Hzが定在波となりますが、これらの低周波領域の定在波による共振現象がシューマン共鳴として知られています。また、ポルク教授(Charles Polk:1920?~2000)らの観測結果からは、比較的高い周波数の定在波は減衰するということがわかっています。

後継者の研究

1924年、ドイツの精神科医ハンス・ベルガー(Hans Berger:1873~1941)が、初めてヒトの脳の電気的な活動を記録し、Electroencepharogram(EEG:脳波)と名付けました。ベルガーは、α波の発見者でもあります。 ヒトの脳波は、眠くなった時、興奮した時など活動の状態によって大きく変化します。 その変化をあらわす様子の脳波は、α、β、θ、δ波などと呼ばれます。健康な成人が眼を閉じて安静にしていると、平均の振幅が10~30μV程度の電圧で8~13Hzの周波数の脳波が測定されます。これはα波と呼ばれます。 眠くなっていくとα波は減少し、周波数は4~8Hzで電圧の低いθ波(徐波)があらわれます。また、神経の活動時や、感覚的な刺激を受けている時には、β波と呼ばれる14~25Hzの周波数帯の波があらわれます。このような脳波波形は、シューマン共鳴による波、局地的な電界変動波形と非常に類似していることが、ケーニッヒ教授(Herbert.L.Konig:1925~1996)らによって明らかにされてきました。このような類似性から、生物発現の太古から自然界に存在し、昼夜を分かたずに地球上を駆け巡っている雷に由来する低周波電磁界がヒトの脳波の形成に大きな影響を与えたのではないかと考えるのも自然なことと思われます。

シューマン教授は、雷放電が生物に与える影響に興味を持っていたとのことですが、実際には教え子のケーニッヒ教授が引き継ぎ、生物に与える影響に関する研究を進めていきました。ケーニッヒ教授の研究グループは、酵母、バクテリアから動植物、ヒトに至るまで数多くの実験を報告しています。理論的な予測として、シューマン共鳴では7.8Hzが基本周波数になりますが、シューマン共鳴で観察される周波数帯を含んだ実験報告では、代表的な周波数として10Hzが取り上げられ、ケーニッヒ教授らは、気象変化に対してヒトは感受性を持っており、自然界にある周波数の電磁現象との関連性を述べています。また、10Hzの正弦波電界をヒトに加えると、概日周期や反応時間が変化することなども報告されています。シューマン共鳴に見られるような低周波帯の電磁環境に、ヒトは進化の過程で適応してきたのではないかと想像され、ケーニッヒ教授等が実験研究を進めていきました。

シューマン教授がシューマン共鳴を理論的に予測した1950年代から1960年代にかけては、学術的な興味からシューマン共鳴、落雷に伴う局所的な電界変動の地球規模での観察などの多くの研究がなされました。その後、1959年以降、米国では、 米国海軍の潜水艦同士の通信に低周波の電磁界を利用することができないかとの研究が、サングイン(Sanguine)プロジェクト(その後、Seafarer)の名の下で行われました。 このプロジェクトには低周波電磁界の生態系や生物への影響を明らかにする研究が含まれていました。

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