医学用語で振戦(トレモロ)という言葉があります。

「身体の一部または全身に現れる意識と無関係に生じる不随的で、かつリズミカルで律動性のある振動」として定義されています。健康で健常なヒトに見られる振動は、生理的な振戦と言われています。例えば、両腕を横に伸ばし、伸ばしたままの姿勢をとると次第に腕が震え、かすかに振動してきます。これは筋肉が神経によって調節されている正常な現象です。その振動の周波数は8~12Hzで主周波数は10Hzですが、ほとんどのヒトはこのような生理的な振戦に気がつくことはありません。

雷とシューマン共鳴現象

自然界における電磁波の主な発生源は雷です。 雷は雷雲内に生じた多量の電荷を数マイクロ秒の間に数キロメートルの長さにわたって大電流として大地に放電させるもので、その電流は数千から数万アンペアに達します。これによって地球規模での電磁波が発生しています。 曲がりくねった長大な放電路は長短さまざまな巨大アンテナの役割を果たし、その放電路の各部分から長さに応じた周波数の電磁波を放射しています。 このような雷放電による電界の変動を遠方から観測すると、どのような波形が観測されるのでしょうか。雷放電からの観測距離が近い場合には、単一のパルス的波形ですが、観測距離が遠くなるにつれ、次第に周期の決まった振動波形に近づいていきます。振動波形になるのは、雷放電によって発生した電磁波が、大地と電離層との間を何回も反射しながら進行し、特定の周波数で共振現象を起こすからです。即ち、地表面と高い導電率を持っている電離層とで囲まれた球殻状の空間は、雷放電によって放射される電磁波に対して大規模な導波管の役目を果たしています。放電の際に放射される電磁波の周波数は、低くは数Hzから高くは数100MHzにまでわたっています。

このように、地球上での自然界における電磁波の主な発生源は雷であると考えられ、電離層と地球との間では低周波の電磁波が放射されていることが理論的に予測され、観測からも明らかにされました。周波数の低い成分は伝搬に伴う減衰が少ないので、地球を何回もかけ回ることができるため、地表面と電離層下面とで作る球殻状の空洞の中で共振し、定常波を発生することになります。この現象は1952年にドイツのシューマン教授によって理論的に予測されたので、シューマン共鳴現象と言い、この共鳴波をシューマン波と呼んでいます。

電界変動のヒトの脳への影響

シューマン教授の教え子のケーニッヒ教授らは、自然界で周波数が1~25Hzの電磁現象で生じる信号を分類し、局地的な気象変化によって生じる電界変動の周波数を、それぞれ8Hz、3~6Hzおよび0.7Hzに分類できることを述べています。同教授らは自然界に存在する低周波電界は、その周波数は大きく分けてこの3種類に分類され、それぞれをタイプⅠ、タイプⅡ、タイプⅢの電界変動と名付けました。また、ケーニッヒ教授らは、これらはヒトの脳波の周波数と同じ領域にあることから、このような低周波の電気信号とヒトの活動との間にはなんらかの関連性があるのではないかと考えました。

雷によって低周波の電磁現象が生ずれば、その電界によって大気中には電流が流れ、その電流によって同じ周波数の磁界が発生することになります。一方、電磁波は周波数が高いほど減衰が多くなるので到達距離は短くなり、もし、一地点で観測した場合、電界と磁界の大きさは周波数にほぼ反比例することが報告されています。数Hzから十数Hzの超低周波領域の電界、磁界の大きさの概略値はそれぞれ10-3~10-5V/m及び10-12~10-14T程度です。

ヒトの脳波の形成が自然界中の電磁界と密接な関係を持つならば、それは単にヒトだけではなく地球上のすべての動物も同じ周波数を持っているのではないかと推測されます。このような推測から動物(イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ)および魚(サケ)の脳波の周波数を調べてみると表のようになります。表「ヒト・諸動物の脳波」を見てみると、動物も魚もヒトに近い数Hzから数十Hzの脳波を持っていることが分かり、シューマン共鳴波との相関性の推理は当たっているようにも見受けられますが、如何でしょうか。

ケーニッヒ教授らは、地球上の電磁環境下で進化してきたヒトも、タイプⅠ、ⅡおよびⅢを含めた1~25Hzの周波数帯の電気的な変動と何らかの関係があるのではないかとの議論を深めてきました。また、ライター教授(Reinhold Reiter)は、「空気中の放電によって生じる電気信号は、その大きさは非常に小さいが周波数は50kHzまでに達する」ということを報告しています。このような現象のヒトの活動に与える可能性を解明するために、1953年にミュンヘンで開催された交通博覧会に際して、多数の入場者を対象とした興味ある実験が試みられました。それは、入場者を実験の被験者として椅子に座らせ、その座席の前に置かれたライトが点燈すると直ちに手元の反応テスト盤のキーを押して反応時間を測定し、反応時間とその時の自然界に存在する低周波電界との相関性を調査したものです。その調査結果を要約すると、タイプⅠの時には反応時間は短くなり、タイプⅡでは逆に長くなる結果が得られています。統計的な評価としては問題があると指摘されますが、空気中の放電による電気信号とヒトの反応に何等かの関連性があることを最初に報告しました。

一方、このような自然界で生じる信号を人工的に発生させて交通博覧会の結果の確認を進めています。用いた信号は、タイプⅠは10Hzの正弦波形で、大きさは2V/m、タイプⅡでは基本周波数が3Hzとその高調波を含んだ波形で大きさは1V/mですが、交通博覧会での結果を確認しています。その後、10Hzパルスで変調された直流電界の、学生・労働者の注意力・集中力への影響を調査した実験、同様な電気刺激条件でドライブ・シミュレータを使用した反射能力、注意力などに対する影響が調べられました。

その後、西ドイツ・マックスプランク研究所のウエーバ教授(Rutger A.Wever:1923?~ )はシューマン共鳴波の電気的な信号に着目して、10Hz、2.5V/mの電界がヒトの概日リズムに与える影響を調べました。地球上の多くの生物はほぼ24時間を周期としたリズムを持っており、その周期は概日リズムと呼ばれています。

昼夜の明暗周期に対応するリズムに10Hzの電界が影響を及ぼすかどうかの実験を行いました。地下室に自然電磁界、外界の音や光を遮断した実験用の部屋を作り、その中にヒトが数週間に亘って住んで、活動や睡眠、体温、尿排出のリズムなどを測定し、10Hz電界とこれらのリズムとの関係を調べました。

シューマン共鳴に関係する1~25Hzの電気的な信号がヒトの脳波と重なることから、自然界で見られる微弱な電界が生理的な影響を与えているのではないかとの仮説を設けて、1960年代にはドイツを中心に低周波の電磁現象がヒトに与える影響を明らかにする研究が行われました。その結果は、ケーニッヒ教授が著した著書で報告されていますが、残念なことに十分な再現性を踏まえた研究が行われていないのがこれまでの状況です。ウェーバ教授が行った外部の情報を遮断した環境下での10Hzの微弱電界のヒトの概日リズムへの影響、すなわち低周波の電界、シューマン共鳴波の電界が生物の持っている固有リズムの同調因子となるかどうかについての実験が、実験動物を用いて行われています。その結果については、次回の電磁気今昔で紹介したいと考えています。

理論的にまた実験的に示されているシューマン共鳴波と生物の脳波や活動との関連性を明らかにするのは容易でないと思われます。 10Hzのシューマン共鳴波がヒトに影響を与えていると考えることも出来ますが、ヒトの活動は多くの要因によってコントロールされていることから、10Hzのシューマン共鳴波が影響を与えると明言できるほどの十分な実験的な裏付けは乏しく、幾つかの実験による推測の域に過ぎないのではないでしょうか。ここでは、過去に行われた幾つかの実験の紹介にとどめます。

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