当センターでは皆様に正しい情報をお届けするためにニューズレターの発行やメールマガジンなどを配信しています。
- 身のまわりの磁界の大きさ
近年、電力市場の活性化や再生可能エネルギー導入拡大、災害対策等の観点から、地域間連系線の強化が進み、高圧直流送電線(HVDC)の新設や増強が行われています。今後もHVDCの導入は国内外で拡大する見通しであり、直流送電線から発生する静磁界(直流磁界)の健康や環境への影響に対する関心が高まると考えられます。
しかし、国内における直流送電線周辺の静磁界の測定事例は限られています。そこで、日本国内にある全4路線(北海道–青森間2路線、岐阜–長野間、徳島–和歌山間)において静磁界の測定を実施しました。
本調査結果は、2024年3月の電気学会全国大会および6月のBioEM2024(ギリシャ・クレタ島)で発表しました。
直流送電は、電気を遠くまで送るときに、交流送電よりも電気のロスが少なく、効率がよいのが特徴です。送電線の見た目にも違いがあり、交流送電線は3本1組の線で電気を送りますが(図2)、直流送電線は2本1組で電気を送ることができます(図3)。
静磁界の測定には、JIS(日本産業規格)に従い、定期的な校正により測定値が正しい値を示すことを確認している測定器(株式会社エムティアイ製FM-3400A)を使用しました(図4)。また、測定する高さは、JISに従い地上1メートルとし、架空送電線の真下や地中ケーブルの真上など、全部で38か所を測定しました。金属製の物の近くでは正しい値が出ないため、それらが周りにない場所を選んで測定しました。
直流送電線から発生する磁界は、時間的に磁界の方向が変化しない「静磁界」で、地球から発生している「地磁気」と同じ種類となります。電磁波の種類について詳しくは
こちら
をご覧ください。日本の地磁気の大きさは約46マイクロテスラ(µT)ですが、地域によって異なります。詳しくは、国土地理院のウェブサイト(https://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/geomag_index.html)で確認することができます。直流送電線から発生する静磁界と地磁気は、それぞれが方向をもっていて、足し合わさったり、逆に弱まったりします。測定された値はそれぞれを分けて測定することができないため、両方が合わさったものになります。
表1に測定結果を示します。直流送電線付近での磁界の大きさは39.7~154.8 µTでした(地磁気を含む)。一方、直流送電線からの静磁界がない場所で測った地磁気の大きさは、46.6~50.6 µTでした。なお、国際的な磁界のガイドラインを定めているICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)によると、一般の人々に対するガイドライン値は400,000 µT(400mT)です。それに比べると、今回測った値は何千分の一のレベルで、地磁気とほぼ同程度でした。
直流送電線から発生している静磁界の大きさは、国際的なガイドライン値(400,000µT)と比較して十分小さいことがわかりました。