高周波電磁界の発がん性に関する動物研究の系統的レビュー論文に対するオーストラリア放射線防護・原子力安全庁(ARPANSA)の解説
2025.5.19掲載
世界保健機関(WHO)は、国際電磁界プロジェクトの枠組みにおける高周波(RF)電磁界の健康リスク評価の一環として、各種の研究領域(疫学、ヒトボランティア、動物、細胞、メカニズム等)での既刊の研究論文の系統的レビューの実施を当該領域の専門家に委任し、その成果が査読付き学術誌 Environmental International に論文として発表されています。
そうした系統的レビュー論文の一つとして、「実験動物におけるがんに対する高周波電磁界ばく露の影響、系統的レビュー」が、同誌2025年5月号に掲載されました。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160412025002338
(EMF-Portal日本語版https://www.emf-portal.org/ja/article/59609で要旨を紹介しています。JEICデータベースにも適宜掲載します。)
この論文に対し、オーストラリア放射線防護・原子力安全庁(ARPANSA)が「実験動物とがんについての研究は、ワイヤレス技術の安全性についてのARPANSAの評価を変更する理由を提示していません」と題する解説(Commentary)を発出しました。
その要点は以下のとおりです。
- このレビューは、WHOが委任した系統的レビュープロセスの一環で、その全体的な目的は、ヒトの健康に対するRF電磁界の潜在的意味合いを評価することです。このためARPANSAは、RF電磁界ばく露に関する科学的証拠の評価に際し、このレビューを慎重かつ徹底的に検討しました。ヒトの健康に対するRF電磁界のインパクトの判定において、ほとんどの有意な証拠は動物ではなくヒトについての研究から得られます。これは、ヒトを対象とした観察研究ではヒトの健康と疾病についてのより直接的で関連性のある情報が得られることから、こちらの方が動物研究と比較して証拠の階層が高いためです。WHOが委任した、ヒトにおける観察研究に着目した系統的レビューでは、RFとがんとの関連は何ら認められませんでした。
- 豪州では、RF電磁界ばく露は豪高周波基準RPS-S1でカバーされています。この基準は2021年に刊行されたもので、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の2020年の改定版ガイドラインに基づいています。ICNIRPの改定版ガイドラインは、[今回の系統的レビューで検討された米国国家毒性プログラム(NTP)の研究やイタリアのFalcioni他による研究を含む]その当時入手可能であった関連する科学的証拠を全て考慮しています。このレビューの大部分の結論は主にこれら2件の研究に基づいており、入手可能な証拠の全てを統合したものではないことから、このレビューは新たな結果を示すものではなく、ゆえに政策変更の根拠にはならない、というのがARPANSAの評価です。実験動物についてのこの系統的レビューは、ARPANSAの安全制限値より低いRF電磁界ばく露による健康影響についての実証された証拠はないという、ARPANSAの評価を変更するものではありません。
ARPANSAのコメントの原文は、以下のURLで確認できます。
"Study on experimental animals and cancer provides no reason to change ARPANSA’s assessment on the safety of wireless technology"
https://www.arpansa.gov.au/study-experimental-animals-and-cancer-provides-no-reason-change-arpansas-assessment-safety-wireless-technology
関連情報:
「ICNIRPが最近の動物発がん性研究についての注釈を発表」(2018.9.5掲載)
https://www.jeic-emf.jp/academic/info/6271.html